メインページへ戻る

韓国大統領選挙 情勢は流動的
持田直武 国際ニュース分析

2007年11月18日 持田直武

野党ハンナラ党の李明博元ソウル市長が支持率40%超で1位。無所属の李会昌元ハンナラ党元総裁が20%台で2位。与党系大統合民主新党の鄭東泳元統一相は支持率10%台で低迷している。だが、1位の李明博候補は金融スキャンダル表面化の不安が消えない。これに対し、与党系は民主党など野党勢力との統合で陣営強化をねらうなど、情勢は最後まで流動しそうだ。


・李会昌候補の参入が流動の起爆剤

 野党ハンナラ党の李会昌元総裁が11月7日、離党して無所属で立候補、状況は複雑になった。各候補の政治的立場は、与党系の鄭東泳候補が現政権の立場を継承する中道左派路線。野党ハンナラ党公認の李明博候補が穏健保守路線。これに対し、李会昌候補は韓国の伝統的な保守派路線を宣言して立候補した。東亜日報がコリアリサーチ・センターに依頼して実施した世論調査によれば、李会昌元総裁の立候補前と立候補後の3候補の支持率は次のようになっている。

            11月3日(立候補前)   11月10日(立候補後)
						
 野党ハンナラ党    李明博候補 41.5%    41.2%
  
 無所属        李会昌候補 20.3%    21.9%
  
 与党系大統合民主新党 鄭東泳候補 14.8%    13.0%


 選挙情勢は10月前半まで、ハンナラ党の李明博候補が支持率50%超だったのに対し、大統合民主新党の鄭東泳候補は10%台で低迷、このまま李明博候補の独走かと思われた。その状況が10月23日、ソウルで李会昌元総裁の出馬を求める市民集会が開かれたのを機に急変した。この集会のあと、各社が世論調査をするたびに、立候補もしていない同元総裁の支持率が上昇。上記東亜日報の調査が示すように、立候補前の11月3日に20.3%、立候補後の10日には21.9%と続伸した。


・李会昌候補は万一の場合の代替候補?

 李会昌元総裁の立候補はハンナラ党内から強い反発を招いた。元総裁は97年と02年の2回立候補して敗れ、これが3回目の立候補。しかも、この立候補で保守票が2つに割れ、与党系の鄭東泳候補が有利になるのは明らかと思われた。その結果、ハンナラ党が10年ぶりに政権に復帰する機会が潰れる恐れがある。また、ハンナラ党内の予備選挙で、李明博候補と公認候補の地位を争った朴槿恵前党代表が配下の党員を引き連れて李会昌元総裁支持にまわり、党を割るという不安もあった。

 ハンナラ党内には、それに加え、李明博候補が金融スキャンダルで抜き差しならなくなるのではないかとの不安もある。同スキャンダルは7年前、李明博候補が実業家キム・ギョンジュン氏とインターネット金融会社を設立した際、キム氏がその設立資金に別の会社の資金を流用したという事件。同氏は他の株価操作などの不正も追及され、米国に逃亡した。李明博候補は不正に関与していないと主張しているが、その一方でキム氏の帰国を阻止する動きをしたと非難されたこともある。

 そのキム氏が11月16日帰国した。同氏は米国に逃亡したものの、米司法当局が韓国政府の要請を受けて逮捕し、身柄を拘束していた。大統領選挙中の帰国はないと見られていたが、予想を裏切って選挙戦の最中に帰国、検察当局が尋問を開始した。捜査が進んでも、選挙に影響しないとの見方もあるが、ハンナラ党内が時限爆弾を抱えるような雰囲気になったのは間違いない。一部では、李明博候補の当落にかかわる事態になった場合、党候補を李会昌元総裁に代えるという党候補交代論まで語られている。


・南北が野党系候補当選に備える動き

 大統領選挙の立候補は11月25、26の両日に限って受け付ける。投票日は12月19日。ハンナラ党内の候補交代論は、この間に李明博候補にスキャンダル拡大などの万一の事態が起きた場合を想定している。同じような候補交代論は与党系大統合民主新党内にもある。同党の公認候補鄭東泳元統一相の支持率が13.0%で一向に上向かない。同党は近く兄弟党の民主党と合同、鄭東泳候補が民主党の李仁済候補の支持率2.1%を引き継ぐことになるが、それを合計しても支持率は15.1%で、野党陣営に太刀打ちできない。

 大統合民主新党の国会議員は143人でハンナラ党129人を上回る。それでも、鄭東泳候補の支持率がハンナラ党系の2人より低いのは、候補に問題があるとの見方が強まった。これを反映、鄭東泳候補に代えて高建元首相を代替候補に擁立する動きが起きる。同元首相は今年1月、当時の与党ウリ党の主流派と新党を組織して立候補を計画したが、断念した。今のところ同元首相には立候補の意思はないようだが、この与党勢力内の動きが鄭東泳候補の立場をさらに弱めた。

 この状況が変わらなければ、ハンナラ党の李明博候補か、無所属の李会昌候補のどちらかが当選。金大中、盧武鉉と10年間続いた北朝鮮融和路線は途絶する。盧武鉉大統領と金正日総書記がこれを黙って見ているはずがない。ソウルで14日から開催した南北首相会談で、双方は今年中に17の実務協議や現地調査を実施して、10月の南北首脳会談で合意した経済協力を来年以降も進めることを決めた。韓国の次期大統領が誰になっても、南北間の合意実施を拒否できない既定事実にするためだった。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2007 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.