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北朝鮮のテロ支援国指定解除問題
持田直武 国際ニュース分析

2007年11月25日 持田直武

アメリカが年内に北朝鮮をテロ支援国指定から解除するかどうか微妙になった。ブッシュ大統領は訪米した福田首相との会談で「北朝鮮の非核化はまだ十分とは言えない」と発言。年内に解除するには11月16日までに議会に通告するのが規則だが、国務省はこれをしなかった。北朝鮮が解除の条件を満たすか、米国内に疑問が生まれている。


・テロ支援国指定解除の条件整わず

 米が北朝鮮を年内にテロ支援国指定から解除することは、北京で9月27日から4日間にわたって開かれた6ヶ国協議で正式に決まった。中国がまとめた合意文書によれば、米と北朝鮮はこの協議で、北朝鮮のテロ支援国指定解除をはじめ、双方が次のような5つの行動を取ることで合意した。履行期限は12月31日である。

 北朝鮮が取るべき3つの行動
 1.寧辺の核施設の無能力化
 2.全ての核計画の完全な申告
 3.核技術を海外に拡散しないとの確認

 これに対し、米側が取るべき2つの行動
 1.北朝鮮をテロ支援国指定から解除
 2.北朝鮮を敵国通商法の対象から除外

 合意文によれば、上記の各行動は、米朝双方が相手側の行動と並行して履行する。このため、米がテロ支援国指定を解除するには、北朝鮮も上記3項目を並行して実施しなければならない。21日付け朝日新聞によれば、ブッシュ大統領は16日の福田首相との首脳会談で「非核化はまだ十分とは言えない。申告や不拡散の問題があり、やることはまだある」と述べて、北朝鮮側の解除の条件が整っていないと不満を表明。テロ支援国解除問題が足踏みしていることを示唆した。


・北朝鮮の申告を検証する手段なし

 北朝鮮のテロ支援国指定解除問題が足踏みしている兆候は他にもある。12月31日までに解除するには、その45日前の11月16日までに、議会に通告するのが規則だが、国務省は通告しなかった。6ヶ国協議の米代表ヒル国務次官補は、事前通告をしなくても年内に実質的に解除できるとして、事前通告に大きな意味はないと説明した。しかし、通告しなかった背景には、ブッシュ大統領が不満を表明した「解除の条件の不備」があることも間違いない。

 北朝鮮が解除のため満たさなければならない条件は上記の3つの行動だが、今のところ、1の核施設の無能力化は作業が予定どおり進んでいるようだ。だが、これから着手する2の核計画の申告と3の核技術の不拡散の確認は、無能力化よりはるかに難しい。核計画の申告では、北朝鮮がこれまで存在を否定してきたウラン核計画をどう申告するかの問題や、これまでに抽出したプルトニウムの量、製造した核兵器の数などを正確に申告するかどうかが問われるからだ。

 クリントン政権時代の94年、北朝鮮との核交渉を担当したガルーチ元大使は19日の国際会議で、「北朝鮮がプルトニウムの量を正確に申告したかどうか、米国にはそれを確かめる手段がない」と述べ、現在の核交渉には欠陥があると警告した。北朝鮮にとって、プルトニウムの量や核兵器の数は、究極の国家機密であり、その申告は、安全保障上の機密を公開するのと同じだ。完全に申告したかどうかについて疑問が出ることが予想されるが、米にはそれを検証する手段がないのだ。


・動きがあるとすれば、次の6ヶ国協議

 核技術の不拡散問題についても、疑問が出ている。今年夏、北朝鮮がシリアに核技術を移転したとの疑惑が浮上、イスラエルが疑惑の施設を爆撃した。北朝鮮は関与を否定しているが、ブッシュ政権内では、チェイニー副大統領はじめ強硬派が北朝鮮政策の見直しを主張。これに議会の共和党議員の1部が加わって、ライス国務長官やヒル国務次官補など対話派と対立している。北朝鮮が今後行う核不拡散の確認の際、この疑惑をどう説明するか、その内容によってはテロ支援国指定解除の行方を左右しかねない。

 ブッシュ政権がここにきて躊躇する背景には、これらに加え、もう1つ日本が拉致問題の解決前に解除することに強く反対していることも影響している。シーファー駐日大使は10月、指定解除について「太平洋で最も緊密な同盟国である日本との関係に悪影響を与えかねない」という内容の手紙をブッシュ大統領に直接送った。核交渉の内容がシーファー大使にあまり届かないとして、ライス長官らの交渉推進派を批判したという。ブッシュ大統領は福田首相との会談で「日本のことは忘れない」と強調したのも、こうした背景からだ。

 米国内の動きの一方で、6ヶ国協議の議長国中国は次の協議を12月6日から3日間開く方向で調整を始めた。次の協議では、北朝鮮が焦点の核計画の申告と核技術の不拡散についての原案を示すとみられ、その内容次第で今後の協議の方向が決まる。米のヒル国務次官補はこれに先立って11月27日から日本と韓国を急遽訪問するという。協議の事前打ち合わせだが、北朝鮮の新しい動きを掴んで来日する可能性も取り沙汰されている。


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