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米朝核交渉の正念場
持田直武 国際ニュース分析

2007年12月16日 持田直武

ブッシュ大統領が金正日総書記に親書を送った。北朝鮮が製造した核兵器の数、抽出したプルトニウムの量、海外に移転した核技術などすべてを開示するよう求める内容だという。金総書記は「我々は約束を守る。あなた方も守るよう希望する」と口頭で回答した。北朝鮮がそのような申告をするか、核交渉は正念場を迎えた。


・親書は年内の完全申告を求める督促状

 ブッシュ大統領が金正日総書記宛の親書を書いたのは12月1日。「Dear Mister Chairman(親愛なる軍事委員長殿)」で始まる丁重な書き出しだった。ヒル国務次官補がそれを持ってピョンヤンを訪問、5日に朴義春外相に手渡した。同大統領が金総書記に親書を送るのは初めてだった。北朝鮮の朝鮮中央通信は翌6日「総書記がブッシュ大統領の親書を受け取った」と異例の早さで報道した。核交渉をめぐる米朝の協調ムードを反映するかのようだった。

 だが、親書は厳しい内容だったことが次第に明らかになった。ホワイトハウスは内容を公開していないが、ペリノ報道官は6日の記者会見で「親書は、北朝鮮が年内にすべての核計画を正確に申告するよう督促するものだ」と説明。また、ニューヨーク・タイムズはブッシュ政権高官の話として、ブッシュ大統領はこの親書で「北朝鮮が製造した核兵器の数や抽出したプルトニウムの量、海外に移転した核技術について正確に申告するよう要求した」と伝えた。

 これに対し、金正日総書記は12日、ニューヨークの国連代表部を通じて口頭で回答した。内容は公表されていないが、ホワイトハウス当局者によれば、回答は「我々は約束を守る。あなた方も守るよう希望する」という主旨だという。北朝鮮が核計画の申告をするのと引き換えに、米側も約束どおり北朝鮮をテロ支援国指定リストから削除するなど、関係改善の措置を取るよう要求したものだ。北朝鮮がかねてから主張している米朝が同時に行動するとの主張である。


・米側が抱く疑念

 だが、米側は北朝鮮と同時に行動するには、北朝鮮が申告する内容が正確でなければならないと考えている。ブッシュ大統領は14日、金正日総書記から回答があったことを明らかにしたあと記者団に対し、「私は親書で金総書記の関心を喚起した。彼が私の関心を喚起するには、核計画や核拡散問題について、すべて正確に申告しなければならない」と語った。北朝鮮が申告する内容が正確でなければ、米側は対応する行動を取らないという主張が込められている。

 実は、6ヶ国協議の共同声明や共同声明を実施するための2つの合意文書は、下段に掲載したように、すべての核計画を完全かつ正確な申告すると規定しているが、申告が正確かどうか検証する手段を決めていない。また、抽出したプルトニウムについて触れているものの、核兵器には触れていない。この結果、北朝鮮が行う申告は、北朝鮮の自発的な発意に任せられ、その申告の内容を検証する手段についての規定がない。これが米側の懸念を生む原因になっている。

1、6カ国協議共同声明(05年9月19日)
・6ヶ国協議参加国は朝鮮半島の検証可能な非核化が目標であることを確認した。
・北朝鮮はすべての核兵器、及び既存の核計画を放棄することに合意した。

2、共同声明実施のための初期段階の措置(07年2月13日)
・北朝鮮は寧辺の核施設を最終的に放棄することを前提にして活動停止する。
・北朝鮮はすでに抽出し、廃棄するべきプルトニウムをはじめ、すべての核計画について6ヶ国協議参加国と協議する。

3、初期段階の次の段階の措置を規定した6ヶ国協議合意文書(07年10月3日)
・北朝鮮は寧辺の核施設を12月31日までに無能力化する。
・北朝鮮は12月31日までにすべての核計画を完全かつ正確に申告する。
・北朝鮮は核物質、技術、及びノウハウを移転しないとの約束を再確認する。


・非核化進展は北朝鮮の申告次第

 米側には、北朝鮮が核を完全に放棄するかという基本的な点の疑念が消えていない。ブッシュ大統領は11月16日、訪米した福田首相との会談で「北朝鮮の非核化はまだ十分とは言えない。申告や不拡散の問題があり、なすべきことはまだある」と述べたという。ブッシュ大統領が金正日総書記宛の親書で、製造した核兵器の数など3つの具体的な項目を挙げて正確な申告を要求したのも、この不満があってのことだ。背景には、北朝鮮が核を完全に放棄するのかとの疑念がある。

 この疑念を打ち消すには、北朝鮮がすべての核計画を完全、かつ正確に申告し、米はじめ国際社会の疑念を打ち消すことだ。しかし、今のところ、北朝鮮はそれを示すような動きをまだ見せていない。金正日総書記は、ブッシュ大統領の親書に対して口頭で回答したが、それは申告の内容に関わるものではなかったようだ。北朝鮮が核計画について、今後どのような申告をするか、その内容次第で6カ国協議の目標である非核化実現の方向に向かうか、それとも対立状況の再来になるか、まさに正念場となった。


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