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北朝鮮は核を放棄するか
持田直武 国際ニュース分析

2007年1月14日 持田直武

北朝鮮の労働新聞など3紙は1日、新年恒例の共同社説で、核保有は「民族史的慶事」と自賛。平壌では4日、市民10万人が決起集会を開催、「強力な抑止力によって、我々は恐れるものがなくなった」と気勢をあげた。米ABC放送によれば、核実験再開の動きもあるという。これで核放棄をするとは思えない。


・北朝鮮の核放棄の約束は3度目

 北朝鮮はこれまでに3回核放棄を約束した。1回目は1991年、韓国と朝鮮半島非核化共同宣言に調印。核兵器の実験、製造、配備、使用などを禁止し、核再処理施設とウラン濃縮施設を保有しないと約束した。ところが翌年、寧辺の核施設で核兵器用プルトニウムの抽出を密かに行っていることが発覚。米クリントン政権と94年、枠組み合意を締結。2回目の核放棄の約束をした。しかし、北朝鮮はこれも守らず、02年にはウラン濃縮による核開発が発覚。中国が議長となって6カ国協議を開始し、05年9月の共同声明で北朝鮮は3回目の核放棄を約束した。

 今の問題は、北朝鮮がこの3回目の約束を守るか、どうかだ。6カ国協議の米代表ヒル国務次官補は11月末、北京で北朝鮮の金桂寛外務次官と会談した際、約束の実施に向けた措置として、次の要求をした。1核実験場の閉鎖、2原子炉の運転停止、3核関連施設のリスト提出、4国際原子力機関(IAEA)の査察実施。北朝鮮が受諾すれば、米は見返りとして、1北朝鮮の安全保障、2休戦協定に代わる平和協定締結、3国交正常化、4テロ支援国の指定解除などを提案した。

 米としては、12月18日からの6カ国協議で、これに対する北朝鮮側の回答があるものと期待していた。しかし、北朝鮮は回答しなかった。実は、北朝鮮外務省は6カ国協議の再開に合意した際、「金融制裁問題を解決することを前提として協議再開に応じる」という条件を付けた。北朝鮮側はこの方針を貫き、6カ国協議では核問題の話合いにまったく応じなかった。この結果、関心は米朝による金融制裁問題の協議に移った。しかし、同協議も進展しているとは言えない。


・金融制裁は拡大の動き

 金融制裁協議は12月19日から2日間、北京で開いたあと、1月中に2回目を開催する約束だが、まだ日程は決まらない。北京の協議では、米が北朝鮮の偽ドル製造やマネーロンダリングなど違法行為の中止、印刷機など証拠の引渡しを要求したが、北朝鮮は違法行為をしていないと拒否した。そして、米財務省が発動した一連の制裁措置の解除を要求した。これに対し、ポールソン財務長官は1月8日、訪米した尾身財務相と会談した際、「北朝鮮が譲らないかぎり、我々のほうから譲ることはない」と強い姿勢を示した。

 そして翌9日、米財務省は北朝鮮と取引関係のあるイラン国営セパ銀行に対する制裁を発動した。この制裁は、国連安保理が12月23日に決議したイラン制裁決議に基づいて行われたもので、制裁の対象はイランだが、北朝鮮に対する制裁も拡大することになった。北朝鮮がイランにミサイル技術を供与した際、同銀行が金融サービスを提供したことが理由だ。制裁の発動によって、今後米国の企業や個人が同銀行と取引することが出来なくなり、同行の在米資産も凍結された。

 ブッシュ政権はこれら金融制裁と並行して、朝鮮半島周辺の空軍部隊を強化している。韓国駐留米軍は10日、空軍が近くF117ステルス戦闘爆撃機一個飛行隊(15−24機)を韓国に配備し、数ヶ月間訓練すると発表した。また、APによれば、米空軍は沖縄にもF22ステルス戦闘機12機を配備するという。一方、朝鮮中央通信は6日、グアムを基地とするB−52戦略爆撃機2機が5日、韓国上空に飛来し、第七艦隊のF16戦闘機などと連携して北朝鮮に対する爆撃訓練を実施したと報道。これは米が核戦争を準備している証拠と非難した。


・解決に向けた米中合作への期待

 北朝鮮もこれに対抗する動きを拡大している。1月1日の労働新聞など3紙の共同社説は「我々が核抑止力を持つのは、不敗の国力を渇望してきた人民の願いを実現した民族史的慶事」と自賛。また、4日には平壌で市民10万人が参加する大集会を開催、「強力な戦争抑止力によって、我々は恐れるものがなくなった。占領できない要塞、克服できない困難はない」と気勢をあげた。こんな最中の5日、米ABC放送は、国防総省高官が「北朝鮮が核実験再開の準備を終えた模様」と語ったことを伝えた。

 現在の状況では、核実験再開はあり得るが、金融制裁問題の協議や6カ国協議が進展する見通しはない。それでも、ブッシュ政権が交渉を続けることについて、6日のワシントン・ポストは複数のブッシュ政権高官の話として「中国を説得するねらいがあるからだ」と伝えている。交渉の過程で、北朝鮮の非妥協的態度が明らかになり、米は中国により強い行動を取るよう説得できるというのだ。その場合の米の期待は、北朝鮮の体制変革も視野に入れるものとなるだろう。

 中国はこれまで北朝鮮の混乱や崩壊を警戒し、対応に配慮する姿勢が目立った。しかし、12月29日発表の国防白書は「北朝鮮のミサイル試射と核実験が東アジア情勢を一層複雑かつ深刻にした」と強い懸念を表明した。米中両国は現在も休戦協定によって朝鮮半島の平和維持に責任を持つ立場であると同時に、万一の場合、同協定や米韓相互防衛条約、中朝友好条約の当事国として介入できる立場にある。両国の結束が、言を左右にする北朝鮮を封じ込める上で役立つのは言うまでもない。


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