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イラン核開発、衝突か交渉か
持田直武 国際ニュース分析

2007年3月4日 持田直武

イランが国連安保理決議を無視してウラン濃縮活動を拡大、アフマディネジャド大統領はもう後戻りしないと宣言した。だが、イラン国内には大統領の強硬方針に反対し、交渉による解決を支持する動きも強まった。米ブッシュ政権も武力行使辞さずの構えを崩さないが、一方では、イラン、シリアを加えた国際会議に応じることになった。衝突の恐れもあるが、交渉解決の期待も生まれている。


・イラン大統領の強硬姿勢に不満高まる

 アフマディネジャド大統領は2月25日の演説で、「イランの核開発は堅固な軌道に乗った。後戻りすることはない」と強調した。国連安保理がイランに対し、「60日以内にウラン濃縮中止を要求する決議」をし、その期限が21日だったが、同大統領は無視した。22日のIAEA(国際原子力機関)の報告によれば、イランはこの間に濃縮装置を増設、今年5月には遠心分離器3,000基による濃縮拡大態勢に入るという。イランは平和目的と主張するが、軍事目的に転用すれば、核兵器1個分の濃縮ウランを1年足らずで製造できる。同大統領が05年8月の就任いらい進めてきた強硬路線の成果である。

 だが、イラン国内では最近この強硬路線に対する批判が目立ってきた。改革派の政治評論家アトリアンファール氏は26日、「強硬発言は核交渉の責任者ラリジャニ最高安全保障委員会事務局長の活動の妨害になる」と批判した。また、改革派のイスラム・イラン連帯党ザヘド党首も「ヴェネズエラのチャベス大統領の真似はやめ、国際的に尊敬されているマンデラ氏を真似てもらいたい」と皮肉った。批判は改革派からだけではない。これまでアフマディネジャド大統領を支持してきた新聞レサラートも「外交に弱さは禁物だが、未熟さも歓迎できない」と書き、同大統領を未熟と批判した。

 この批判の背景に、イランの最高指導者ハメネイ師や核交渉の責任者ラリジャニ氏の意向があるのは間違いない。1月中旬、イランの強硬派を代弁する2つの新聞が「アフマディネジャド大統領の発言は核問題を混乱させる」と批判した。新聞の1つは、ハメネイ師の影響下にある新聞、もう一つは、ラリジャニ氏の報道官が経営する新聞だ。同報道官はこの新聞に「大統領の挑戦的な発言は、交渉の努力を妨げ、終わりかけた危機を長引かせている」と書いた。このあと、国会議員50人が核開発問題で大統領を国会に喚問しようとする事態も起きた。


・ブッシュ政権の姿勢にも変化

 米国内にも対イラン強硬派は依然多い。チェイニー副大統領は2月24日、オーストラリアで記者会見し、「イランがウラン濃縮を続けるなら、軍事行動を含め、あらゆる対抗策を取る」と強調した。同じ日、アメリカの雑誌ニューヨーカーも「統合参謀本部がイラン爆撃計画を立案し、大統領が命令を出せば、24時間以内に行動を起こす」と報道した。それによれば、「米軍は数ヶ月前から参謀本部内にイラン爆撃担当グループを組織、核施設の爆撃や政府転覆工作、イラクへの武器の流れ阻止などを目的に活動。要員の1部はイランに潜入して情報収集にあたっている」という。

 だが、強攻策だけではないのも事実で、交渉重視の動きも強まった。バグダッドで3月10日から開かれるイラクの安定を協議する会議には、米代表がイラン、シリアの代表と同席することになった。会議には、日本はじめ英仏独など西欧諸国、中国、ロシア、サウジアラビア、トルコも参加。当面大使級だが、4月に外相会議も予定している。開催はイラクのマリキ首相が呼びかけたが、米が背後で動いたのは明らかだった。中間選挙で、交渉路線を掲げた民主党が躍進し、ブッシュ政権も対話拒否路線を修正せざるをえなくなったのだ。この会議の成否がイラン核問題に影響を及ぼすのも間違いないだろう。

 イランが米との交渉を望んでいることも明らかになっている。ワシントン・ポスト(06.6.18)によれば、米軍が03年4月、フセイン政権を打倒した直後、イランはスイスを通じて米に関係改善の正式提案をした。核開発やイスラエルの承認、パレスチナやレバノンの過激派支援など懸案のすべてを協議するとの提案だった。そして03年11月には、EUの説得に応じて、ウラン濃縮を停止した。しかし、ブッシュ政権はこの提案を無視した。現在のイスラム主義政権は長持ちしないと見たからだという。それから2年後、強硬派アフマディネジャド大統領が登場、ウラン濃縮を再開、施設も次々に拡大した。


・ウラン濃縮中止が先か、交渉開始が先か

 最近、イランの最高指導者ハメネイ師は依然交渉を望んでいるとの情報も流れた。2月23日のCNNニュース(電子版)によれば、イランの政府幹部の1人はテヘランで同ニュースのインタビューに答え、「イランと米国は本来同盟国だ」と強調。「双方は戦争への悪循環を断ち切らなければならない」と語った。そして、「この考えはイラン政府の一致した意見ではないが、宗教指導層の最高権威者はこう考えている」と述べた。インタビューアーが「最高指導者ハメネイ師の考えか」と聞くと、同幹部は「そうだ」と肯定したという。

 交渉を望む背景には、経済面の困窮がある。米は1980年イランと断交以来、軍事品の輸出禁止、経済交流禁止、石油開発協力阻止など各面で制裁を続行、これに昨年暮からは国連の経済制裁も加わった。イランがウラン濃縮を今後も続ければ、国連安保理があらたな制裁を課すことも間違いない。イランの油田埋蔵量は世界第2位だが、生産設備は老朽化、このままでは10年後には石油輸出も不可能になるという。また、石油精製施設も足らず、国内で消費するガソリンや灯油の大半は輸入に依存しなければならない。アフマディネジャド大統領は強気だが、交渉を望む声が強まっても不思議ではない状況なのだ。

 中東の安定には、米・イランの関係改善は不可欠の条件だ。そのためにも、両国の2国間交渉が必要だが、米のライス国務長官はその条件として、イランがウラン濃縮を中止することを挙げる。これに対し、イランのモタキ外相は交渉を開始したあと、中止するかどうか決めるという主張だ。対立は、濃縮中止が先か、交渉開始が先か、である。1979年、イランの革命派が米大使館員52人を444日間にわたって人質にした事件から27年。米・イランとも対決一辺倒の姿勢をようやく修正、2国間交渉に乗り出すかどうかの正念場にたどり着いたようだ。


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