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6カ国協議 合意実施を阻む北朝鮮資金
持田直武 国際ニュース分析

2007年4月22日 持田直武

北朝鮮が核施設の活動停止に応じない。米の金融制裁で凍結された北朝鮮の資金がまだ戻らないというのが理由だ。だが、米とマカオ当局はすでに資金の全額2,500万ドルの凍結を解除したと発表。銀行も口座の持ち主が手続きをすれば、資金を動かせると保証した。しかし、北朝鮮側はまだ資金を動かせないという。


・資金問題の核心は依然として謎

 北朝鮮資金については、米が3月26日に2,500万ドル全額の返還を決定。マカオ金融当局も4月10日、同資金の凍結を解除した。預金先の銀行バンコ・デルタ・アジアも資金の持ち主が手続きをすれば、何時でも引き出せると保証した。ところが、資金は北朝鮮にまだ渡っていない。北朝鮮はそれを理由に、6カ国協議の合意実施を拒否。14日が期限だった同合意の初期段階の措置「寧辺の核施設の稼動停止とIAEA(国際原子力機関)要員の復帰」が宙に浮いている。

 資金がなぜ北朝鮮側に渡らないのか。理由ははっきりしない。中国外務省の劉建超報道官は17日の記者会見で「一部細かい問題が残っており、米とマカオ、北朝鮮の当事者が話し合う必要がある」と述べ、問題があることを認めた。しかし、その問題が何かについては説明しなかった。資金問題では、米財務省のグレーザー次官補代理が資金の返還決定の前後2回にわたって北京を訪問、関係者と協議して手続き問題は解決したはずだった。しかし、ほかにも問題があったことになる。

 韓国の中央日報(17日電子版)によれば、この問題について、同国の宋旻淳外交通商相は報道関係者との懇談会で「銀行預金を動かすには、出金、送金、入金の過程があるが、北朝鮮資金の場合、送金と入金には問題はない」と説明した。つまり、出金の段階に問題があるということになる。マカオの金融当局が10日、資金の凍結を解除したあと、北朝鮮は約20人の実務者をマカオに派遣した。出金の手続きが目的なのは明らかだったが、問題解決には至っていない。


・出金できないのは何故か

 出金手続きが何故できないかについて、上記の中央日報は次のような韓国政府高官の見方を紹介している。「北朝鮮は口座の名義人が出金を求めていることを示す書類をバンコ・デルタ・アジアに提出できなかった」。銀行が資金をほかの銀行に送金するには、口座名義人の送金の意思と送金先の銀行口座の存在を確認しなければならない。しかし、北朝鮮資金の送金では、この入り口の部分、つまり名義人の意思を確認することができないのではないかと見られるのだ。

 バンコ・デルタ・アジアに預金してある北朝鮮資金は総額2,500万ドル、個人や会社名義で52の口座に分かれている。このうち、米財務省が不正資金と断定したのは17口座で合計1,300万ドル。残りの35口座1,200万ドルは不正とは無関係だった。だが、問題はこの口座の名義人である。中には、マカオの朝光貿易総支配人だった朴紫炳氏のように死亡した人や、すでに失脚した人、あるいは中南米などの偽造パスポートを使って開設したものもあると言われる。

 偽造パスポートでは、日本も経験がある。北朝鮮の金正男氏と瓜二つの人物が01年5月、ドミニカの偽パスポートを使ってシンガポールから成田空港に到着した。外国情報機関の事前の通報がなければ、偽造と見抜けなかったと思われる程、精巧だったという。同じ様な偽造パスポートで銀行口座を開設したとしても不思議ではない。しかし、今になって、その名義人の意思を確認することは難しいに違いない。米財務省が口座を洗いざらい調べ上げたと見られるだけに尚更である。


・ 口座の真の持ち主は誰か

 ニューヨーク・タイムズ(12日)によれば、米財務省は北朝鮮の違法行為捜査のため大規模な国際捜査を展開。マカオに巣食う中国人ギャング団におとり捜査官を潜入させ、偽ドル頒布などに関係した59人を逮捕した。違法行為に関係した中には、中国銀行など大手もあり、バンコ・デルタ・アジアは違法行為が少ないほうだったという。しかし、大手の銀行を制裁すれば、国際的な影響が大きすぎると判断、バンコ・デルタ・アジアという個人経営の小規模銀行が対象になった、いわば、生贄だった。

 しかし、この捜査はブッシュ政権の方針転換で立ち消えになった。捜査を積み上げれば、偽名口座や架空口座の真の持ち主に行き着く可能性があっただろう。だが、ブッシュ政権はイラク政策の不評をかわすための得点が喉から手が出るほど欲しい。1月中旬のヒル国務次官補と北朝鮮の金桂寛外務次官のベルリン会談を経て、ブッシュ政権は6カ国協議の合意を得るために、違法行為の捜査終結、北朝鮮資金の凍結解除、資金の全面返還へと譲歩を重ねた。

 だが、これで北朝鮮の核問題が解決する見通しが出たとは言えない。2月13日に合意した6カ国協議の初期段階の措置も、4月14日が期限だったが、今後何時まで延びるかわからない。それも、北朝鮮が資金の凍結解除を確認するまでと主張する限り、主導権は北朝鮮が握ることになる。今後、核の無能力化、さらに朝鮮半島の非核化と進むにあたっても同じような状況が次々におきても不思議はない。ブッシュ政権は極めて不適切な先例を残したと言わざるをえない。


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