メインページへ戻る

米大統領選挙とテロ戦争
持田直武 国際ニュース分析

2007年8月19日 持田直武

民主党の有力大統領候補ヒラリー・クリントン上院議員が支持を拡大、米国初の女性大統領誕生の可能性が強まった。同上院議員もそれを意識し、核兵器戦略やテロ戦争で現実的な発言が増えた。1年余り前、同上院議員はイランに対する核攻撃に反対を表明したが、最近は核兵器の使用、不使用を断定的に言うべきではないと主張。冷戦以来の歴代大統領の核政策に歩調を合わせた。


・クリントン議員がトップの座を固める

 次期大統領選挙の立候補者は民主党8人、共和党9人。米CBSの調査によれば、両党の上位2人の最近の支持率は以下のようになっている。

・民主党
(8月8日−12日)の調査        前回(7月9日―17日)の調査
1位、クリントン上院議員 45%     クリントン上院議員  43%
2位、オバマ上院議員   25%     オバマ上院議員    24%

・共和党
(8月8日―12日)の調査        前回(7月9日―17日)の調査
1位、ジュリアーニ前N.Y.市長 38%   ジュリアーニ前N.Y.市長  33%
2位、トンプソン前上院議員  18%   トンプソン前上院議員   25%

民主党はクリントン上院議員がオバマ上院議員を抑えて支持率を拡大、トップの座を固めている。同議員の知名度、選対の組織力や集金能力などを考えると、来年1月から始まる予備選挙や党員集会で早々と党候補の指名を確実にするとの予想も出ている。一方、共和党はジュリアーニ前ニューヨーク市長がトップ。2位には、トンプソン前上院議員が浮上した。トンプソン前議員はまだ正式に立候補していないが、保守派上院議員としての実績や俳優としての知名度があり、穏健派のジュリアーニ前市長を今後追い上げると予想されている。


・クリントン議員は当選を意識した発言

 大統領選挙の投票日は来年11月4日だが、CBSが7月9日から17日にかけて行った世論調査によれば、投票日に民主党候補に投票すると答えた有権者は47%、共和党に投票すると答えた有権者は32%だった。ブッシュ政権のイラク政策をはじめとする対外政策の不評、移民問題など内政面への不満などが重なり、民主党支持の雰囲気が広がっている。米メディア各社の世論調査は、来年11月の投票日に民主党のクリントン上院議員と共和党のジュリアーニ前市長が対決した場合、クリントン上院議員が勝つと予測するものが圧倒的に多くなった。

 この予想が当たれば、米国に初めて女性大統領が誕生する。クリントン上院議員もそれを意識した発言がめっきり増えた。最近、クリントン議員がオバマ議員とやり合ったテロ戦争をめぐる論戦にそれが現れている。オバマ議員がディベートや遊説で、極めて大胆にテロ戦争に関連する3つの発言をした。1つは、大統領に当選したら、ならず者国家の指導者と1年以内に会う。2は、パキスタンのアル・カイダ潜伏先を攻撃する。3は、この攻撃に核兵器は使わない。この発言に対し、クリントン上院議員は「無責任」あるいは「未熟」と厳しい言葉で反論した。

 1のならず者国家の指導者と会う件は、7月23日の候補者同士のディベートで司会者が質問として提起した。これに対し、オバマ議員は「1年以内に会う」と回答。しかし、クリントン議員は「宣伝に使われ、状況が悪化する」として会うことに反対した。これについて、オルブライト元国務長官は「問題は、大統領が結果の保証なしに会うことがよいかどうかだ。クリントン議員はそれを理解している」とコメントし、クリントン議員に軍配を挙げた。オバマ議員は「クリントン議員はワシントン政治の古い慣行に染まった」と批判したが、確かにクリントン議員がワシントン政治の枠組みを踏み外さなくなったことは確かだった。


・クリントンは核攻撃についても軌道修正

 もう1つの論争は、大統領として、パキスタンのアル・カイダ潜伏先を攻撃するか、その際核兵器を使うかという問題である。きっかけは、オバマ議員が8月1日の演説で「正確な情報があるなら、パキスタンのアル・カイダ潜伏先を攻撃する」と発言。さらに9日には、記者団が「攻撃の際、核兵器を使うか」と質問したのに対し、「如何なる状況下でも、核兵器の使用は間違いだ。私は使用の検討もしない」と核兵器の使用を真っ向から否定した。反響は内外から起きた。パキスタンのカスリ外相は「我々の迷惑も考えずに選挙戦の材料にするのは好ましくない」と不快感を表明した。

 クリントン議員も「大統領は核兵器を使うとか、使わないとか断言するべきではない。冷戦以来、歴代大統領は核兵器の使用、不使用を明言しなかった。それが抑止力となり平和を維持した」とオバマ議員の発言を批判した。しかし、クリントン議員もオバマ議員とまったく同じ発言をしたことがある。ブッシュ政権が06年4月、イランの核開発阻止のため核攻撃を含む軍事行動を取るとの情報が流れた時だ。クリントン議員はブルームバーグ・テレビのインタビューに答え「私はすべての選択肢を検討するべきだと思うが、核攻撃だけは除外するべきだ。それは大変な間違いだ」と主張した。

 クリントン議員がこの核不使用発言をしたのは、上院議員としての再選を狙っていた時だった。大統領当選の可能性が出た今、軌道修正は必然だった。オバマ議員は「クリントン議員の言う経験とは、大統領候補が言うと期待されていることを言っているだけだ」と批判しているが、確かにそのとおりである。クリントン議員には、夫の元大統領やオルブライト元国務長官など多数のアドバイザーが付き、同議員を大統領にふさわしい姿に変えている。予想どおり当選し、米国初の女性大統領になっても、核兵器を使わないと言わないことは間違いない。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2007 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.