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6ヶ国協議 ブッシュ政権の焦り
持田直武 国際ニュース分析

2008年4月13日 持田直武

ブッシュ大統領の任期が残すところ10ヶ月を切った。核問題を解決して同大統領の外交実績とするには十分な時間とは言えない。8日の米朝シンガポール会談では、功を焦るブッシュ政権が北朝鮮に大幅な譲歩をしたことが明らかとなった。


・北朝鮮の核申告提出でテロ支援国指定解除

 8日の米朝シンガポール会談は北朝鮮の要求で実現した。金桂寛外務次官がシンガポールに飛び、東チモール訪問から帰る途中のヒル国務次官補と会った。双方とも会談内容は公表していない。しかし、ロイター通信によれば、帰国したヒル次官補は10日議会で会談内容を説明、次のような点で合意したことを明らかにした。功を焦るブッシュ政権が北朝鮮に大幅譲歩したことがわかる。

「北朝鮮が取るべき行動」
1)北朝鮮は核計画の申告として、抽出したプルトニウムの全量、および米側がこれを検証するのに必要な抽出記録を提出する。
2)米側は、ウラン核開発の存在や、シリアへの核技術移転に懸念を表明する。
3)北朝鮮はこの米側の懸念を認める。

「米側が取るべき行動」
 北朝鮮が上記申告を6ヶ国協議議長国の中国に提出するのと同時に、米側は次の措置を取る。
1) 北朝鮮をテロ支援国指定から解除する。
2) 北朝鮮を敵国通商法の適用対象国から除外する。


・無視された全ての核計画の完全かつ正確な申告

 昨年10月の6ヶ国協議では、核計画の申告やテロ支援国問題などに関する合意は次のような内容だった。上記のシンガポール合意に比べ、北朝鮮に対し項目別に強い姿勢を打ち出していた。

「北朝鮮が実施するべき行動」
 1)北朝鮮が寧辺の核施設を無能力する。
 2)すべての核計画を完全かつ正確に申告する。
 3)核物質、核技術、およびノウハウを移転しないことを確認する。

「米国が実施するべき行動」
 1)北朝鮮をテロ支援国指定から解除する。
 2)北朝鮮を敵国通商法の対象から除外する。

 上記のうち、米が特に譲れない一線として主張したのが、北朝鮮がすべての核計画を完全かつ正確に申告することだった。6ヶ国協議の目標である朝鮮半島の非核化を実現するには、北朝鮮の核開発計画の全容を把握することが不可欠だからだ。その点で、北朝鮮がウラン核開発とシリアへの核技術移転疑惑の2つをどう説明するかは、その成否がかかる焦点だった。だが、ブッシュ政権はシンガポール会談でこの問題であっさり譲歩、米が懸念を持つと表明し、北朝鮮がこれを認めるだけで済むことになった。


・ブッシュ大統領の任期中の解決は無理

 このシンガポール会談の合意には、早くも批判が出ている。ロイターによれば、クリントン政権の核交渉担当大使だったプリチャード氏は「この合意では、北朝鮮の核開発の全容を知ることは出来ない」と次のように批判した。「ウラン核開発計画やシリアへの核技術移転疑惑について、米が手持ちの情報を基にして懸念を表明し、北朝鮮はこれを認めるだけでは核計画の全容は表に出ない。しかも、北朝鮮側は自分の情報を出さないで、米情報の手の内を知ることができる」というのである。

 こうした批判に対し、ブッシュ政権は兵器級プルトニウムの増産を現段階で抑えることを優先したと反論している。11日のワシントン・ポスト(電子版)によれば、ヒル国務次官補は同紙に対し「ブッシュ政権が北朝鮮に対して、すべての核計画の完全で正確な申告を求め続ければ、膠着状態が続いて6ヶ国協議は崩壊する。それよりも、兵器級プルトニウムの抽出を現段階で食い止めることが重要だと判断した」とシンガポール合意の意義を強調した。

 だが、その兵器級プルトニウムについても、米は北朝鮮が50キロ余り抽出したと推定しているが、北朝鮮は30キロと主張。双方の主張に20キロ(核爆弾3個分)の差がある。しかも、ウラン核開発疑惑も解明されないまま残る可能性がある。6ヶ国協議の最終目標である朝鮮半島の非核化を達成するためには、これらの問題を完全に解明する新たな措置が必要になる。任期が残すところ10ヶ月を切ったブッシュ大統領では、時間が足りそうもない。


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