メインページへ戻る

米大統領選挙戦 クリントン候補ねばる
持田直武 国際ニュース分析

2008年4月27日 持田直武

クリントン候補がペンシルベニア予備選挙で予想以上の支持を集めて勝った。選挙資金はオバマ候補の4分の1、借金1,000万ドル余を抱えての勝利だった。残る予備選挙はノースカロライナ州など7州と自治領プエルトリコ。クリントン候補が逆転勝利する可能性はまずないのだが、それでも撤退しないのは何故か。


・細るクリントン候補への献金

 21日のペンシルベニア予備選挙の前夜、AP通信は「オバマ候補は資金十分、だがクリントン候補は借金漬け」という記事を流した。4月の運動開始にあたって、オバマ候補は4,200万ドルの銀行預金があった。だが、クリントン候補はその4分の1にも満たない930万ドル。しかも、電話代の未払いなど借金が1,030万ドルもあった。昨年、クリントン候補は民主党系の献金組織を一手に握って資金集めをリードしたが、今年は次の表で見る如く流れが変わった。

「両候補への献金額」(単位万ドル)
      07年累計  08年1月  2月     3月
クリントン 1億705  1,350  3,450   2,000 
オバマ   1億209  3,600  5,540   4,100

 今年に入って、オバマ候補への献金が急増し、1月から3月までの累計は1億3,240万ドル。クリントン候補の累計6,800万ドルの約2倍となった。献金の内訳を見ると次のようにオバマ候補は200ドル以下の小口献金が多い。これに対し、クリントン候補は2,000ドル以上の大口献金が多い。

「両候補への献金の内訳」
献金額         オバマ      クリントン
200ドル以下     40.3%    21.4%
200−499ドル    8.7%     5.4%
500−999ドル    8.8%     6.1%     
1000−1999ドル 14.0%    14.2%
2000ドル以上    29.3%    44.4%

 オバマ候補への献金で最も多いのは200ドル以下の小口献金で40.3%。その総額は7,806万9,202ドル、献金した支持者は39万人余りになる。オバマ候補の献金額が今年に入って増えているのは、こうした小口献金に応じる支持者が増えているのに加え、一度献金した支持者がその後も2度、3度と献金するためと見られている。これら支持者は投票所に足を運ぶ確率も高く、オバマ候補が予備選挙や党員集会で勝利を重ねる原因になっている。

 これに対し、クリントン候補は2,000ドル以上の献金が44.4%。その多くは民主党エスタブリッシュメントを通じて集めている。献金者は富裕層がほとんどで、献金の法的上限2,300ドルを1度に献金する。クリントン候補が昨年まで献金額で他候補を大きくリードしたのは、この献金網のおかげだった。しかし、このルートは献金制限のため今はほとんど使えない。クリントン候補に対する献金が今年急減した理由である。


・両陣営の選挙運動に3対1の格差

 オバマ陣営は献金が増加、クリントン陣営は逆に減少という対称的な結果が次のような両陣営の支出の差となって現れた。

「3月の両陣営の主要支出概算」
     オバマ候補  クリントン候補
広告費  900万ドル 300万ドル
電話料  500万ドル 200万ドル

 選挙結果を左右するのは、テレビを主体とする広告、それにフォーン・バンクと呼ばれる大量の電話を使った投票勧誘作戦である。オバマ陣営はこの2分野の支出合計でクリントン陣営に3対1の差を付けた。4月22日のペンシルベニア予備選挙でも、オバマ陣営は広告費でクリントン陣営を2対1と圧倒した。しかし、同州ではクリントン候補が民主党の伝統的な地盤を掘り起こし、10%の大差を付けて勝った。

 クリントン候補の選対事務所によれば、このペンシルベニア州の勝利のあと、同事務所宛の献金が急増。24時間で1,000万ドルに達したという。同事務所がオバマ陣営を模して作ったインターネット・サイトに入金が殺到したというのだ。クリントン候補が気息奄々とした状態から脱したことは間違いなかった。敗れたオバマ陣営は沈黙しているが、同陣営の関係者によれば、献金は同陣営にも殺到、入金を知らせるコンピューターが焼き切れるかと思うほどだったという。


・クリントン候補が撤退しなのは何故か

 残る予備選挙と党員集会はノースカロライナ州など7州と自治領プエルトリコ。選出する代議員は408人。8月の民主党全国大会で党大統領候補の指名を獲得するためには代議員と特別代議員合わせて2,025人の支持を確保しなければならない。CNNの集計によれば、オバマ候補とクリントン候補がこれまでに獲得した代議員は次のようになっている。

「両候補の代議員獲得数」(4月25日現在)
      代議員     特別代議員  合計
オバマ   1491人   233人   1724人
クリントン 1333人   256人   1589人
未定     408人   306人

 上記で見るように、クリントン候補は特別代議員の支持でオバマ候補を23人リードしているが、代議員では158人のリードされている。しかも、今後行われる7州とプエルトリコの予備選挙で、同候補がこの差を埋めるのは絶望というのが一般的な見方だ。世論調査では、情勢は州ごとの優劣はあっても全体ではほぼ互角、クリントン候補が逆転することはないという。同候補が予備選挙で逆転できなければ、期待する特別代議員の支持も難しくなる。

 民主党内にクリントン候補に対する撤退要求が出るのも不思議ではなかった。共和党のマケイン候補に対抗するため党の一本化が急務だからだ。だが、クリントン候補は撤退に応じない。何故、撤退しないのかについて、クリントン前大統領の選挙参謀だった評論家ディック・モリス氏は25日のフォックス・ニュース(電子版)への寄稿で「クリントン候補が撤退しないのは2012年の大統領選挙を視野に入れているためだ」と次のように書いている。

「クリントン候補は冷徹な現実主義者で、残る予備選挙で逆転できるとも、特別代議員の支持を受けられるとも思っていない。真のねらいは12年の大統領選挙で勝つことだ。そのために、今回はマケイン候補が大統領に当選することを期待している。同候補が大統領に当選すれば、クリントン候補は12年の選挙で再挑戦できる。しかし、オバマ候補が大統領になれば、クリントン候補の出番は永久になくなる。オバマ大統領の任期が終わる8年後には、クリントン候補は69歳で年齢的に無理になる」。そんなことにならないよう、今回は可能な限りねばるというのだ。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2008 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.