アメリカで食う見る遊ぶ
夢にも出てくる、寿司すしSUSHI

ニューヨークで、SUSHI喰いねえ

私はお寿司が大好きだ。すごい小食で病弱だった子供の頃から、お寿司だけはたくさん食べられた。それも、寿司屋のカウンターでトロを20個も30個も食べるような生意気な子供だった。そうすると親が喜ぶと思っていたのだ。今思えば親は、そんな私を横目に並の握りしか食べていなかったから、フトコロは大変だったと思う。

おかげで舌が肥えてしまって、OL時代はお寿司を食べるためだけの小旅行をよくした。真鶴、焼津、房総半島…。昼夜と漁港近くの寿司屋に行き、その間はお腹をすかせるために泳ぐ。寿司屋が並んでいることで有名な街小樽では、一食に2軒はしごしたこともある。

ニューヨークに引っ越すことが決まった時、「お寿司」もあきらめた事の一つだった。和食はアメリカでブームになっていて、SUSHIレストランが沢山あることは知ってはいたけれど、どうせカリフォルニア巻きでしょ? 私は新鮮なネタを絶妙なバランスの酢飯で握った、ホントのお寿司しか認めないのよ。そんなお寿司とはしばらくお別れなのね、と思っていた。

ずらーりと並んだすし田のお寿司4人前。うほほーい

ところが、そんなことは全然なかったのである。今は、朝築地で競られた魚が、その日の昼にニューヨークに届く時代なのだ。(時差は14時間あるけどね)。日本の有名な寿司屋さんが、ニューヨークにいくつも支店を出している。そこでは、日本から転勤してきた板さんが、お寿司を握っている。日本と全く変わらないお寿司が、ニューヨークでは食べられるのだ。

それでも私はなかなか寿司屋に行けなかった。だってすごく高いんじゃないかと思っていたんだもん。たまにチェーンのカリフォルニア巻き系SUSHI屋に入って、欲望を鎮めていた。そういうチェーンSUSHI屋は、たいてい韓国人か中国人が握っていて、店員はラティーノだったりする。まあまあ安いけど、日本語は通じませんので念のため。

でも色々な日本人が、ニューヨークの本格寿司屋はとてもいいと言うのだ。値段だって、銀座で食べるのに比べたら、ずっと安い。空輸のネタは高いけど、ボストンなどの近海で取れた魚で握る寿司は、新鮮で安くておいしいんだよ、と。
ロブスターの活け造り。ひげがピクピク痙攣中

すし田  日本人票3票
寿司前田 日本人票2票
はつはな 日本人票1票
Sushi Yasuda ザガットでダントツの一位
ボンドストリート レオナルド・デカプリオやマドンナが行くらしい
ジュエル・バコ いつも予約でいっぱい

などなど、情報も集まってきた。「トロ」「うに」「いわし」そして、「しめ鯖」。ずっと食べていなかった好物のお寿司が、目の前にちらつく様になってきた。生きているご褒美として寿司屋に行っても、罰は当たらないよね?

日本人票が集まる、日本人板さんが握る寿司屋は、ホントウに日本で食べるのと変わりがなかった。ボストン産だというウニは、とろけるようで日本で食べるよりおいしいと思った。アメリカ名前のイカも、コリコリして甘くて新鮮だ。残念なのは、私が大好きなイワシが、近場にはいいのがなくて、空輸物になるから高いこと。こっちで取って日本に空輸しているはずのトロが、あんまり安くないこと。
握りセットにカリフォルニア巻きが付くのはご愛嬌

調子に乗って、ザガットに載るようなSUSHI屋にも行ってみた。Sushi Yasudaは、日系レストランから独立した安田さんが、2年前に作った店だ。大きなカウンターの中に、ずらりと板さんが並び、その中心に安田さんが居る。マグロだけでも何種類も揃えていて、ひとつひとつ説明を聞くのが面白い。安田さんのお寿司は、薄くて繊細なネタとそれに合わせて握られた小ぶりのシャリで、まるで芸術品のようだ。口に入れるとしゅるしゅると溶けてしまい、私には200個くらい食べられそうだった。

Lディカプリオが誕生パーティーをしたという(真偽不明)ボンド・ストリートは、看板が出ていない、住宅街のアパートの中にある店だ。内装がすごくおしゃれで、客はモデルみたいな人ばかりらしいんだけど、店が暗すぎてなんにも見えなかった。この店は、「これは日本式じゃないよ!」と怒りたくなるくらい、ひと皿の量が少ない。お寿司なんて、どうやって握ったんだろうと思うくらいの、小指サイズの小ささだ。隣のテーブルでは、40ドルの握りセットを頼み、小指のお寿司がちまちまとお皿に盛られて出てきたのを見て、「これだけ?」と聞いていた。あの人たち、もう2度と寿司屋なんかごめんだと思っただろうなあ。
ボンドストリートのトロタルタルとかにサラダ。添えてある花の方が、大きかったりして

ボンド・ストリートで懲りたので、ジュエル・バコには行っていない。何度電話しても予約でいっぱいだと言われているうちに、お酒が1本100ドルだと噂で聞いたのだ。そんなとこに私が行ったら、何百ドルかかるかわからないから、やめた。

やっぱり私が好きなのは、子供の頃からずっと行っていた、「すし春」のお寿司だ。ネタがぶ厚くって、それが大きなシャリの上にどーんと乗っている。このシャリが炊き加減も酢加減も抜群で、格別なのだ。やや握りが甘くてしなるようなお寿司を、一気に口に放り込む。口はいっぱい、目も眩む。時にはわざと、わさびが山盛り入っている。すし春のおじさんのツーン攻撃に半泣きになりながらも、おいしいおいしいと食べていた。
すし春しのスペシャル。出前して欲しい〜

すし春のおじさん、元気かな。家族は私抜きで、すし春に行ってるんだろうな。真鶴は今何がおいしいんだろう。またカワハギが食べたいな…。
ニューヨークの寿司屋のカウンターで思い出すのは、日本のことばかり。ボストンマグロの背中に乗って、ビューンと帰りたくなる瞬間だ。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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