ニューヨーク暮らしことはじめ
車をにらみつけながら進みましょう

止まらず走らず。ニューヨークの歩き方

ニューヨークでビックリするのは、誰も交差点で立ち止まらないこと。 信号が「WALK」だろうが「DONT WALK」だろうがおかまいなし。杖をついたおばあさんだって、赤信号でもゆっくり堂々と交差点を渡って行く。車の方が止まっちゃうくらいだ。車が通っていたって、その間をぬって渡る。ガタイのいい黒人のお兄さんが、流れる車の間をするりするりと抜けていく。そのしなやかな動きが、なんだかとてもカッコいい。

車の方も心得たもので、急ぐ時にはけたたましくクラクションを鳴らして、交差点に突っ込んでくる。 「この車は本気だな」という迫力の時には、さすがに人の方がちょっとよけたりして。

慣れない私は、車が来ない交差点にぼーっと突っ立っていたり、前の人にくっついてフラフラ出て行ったり。猛スピードで走ってきたタクシーに「パパパパパパー」と派手にクラクションを鳴らされたこともある。

堂々と歩けば車もよける(かな?)

「うひゃー」と慌てて走って逃げたのだが、実は走るのはご法度なんだそうだ。
「ニューヨークで人が走っていたのは、9.11の時ぐらいよ」と、 時々ガイドをしているMちゃんが言う。
「人が走っているのを見ると、ギョッとしちゃうのよ。また何か起きたのかってね。だから、走るのはやめてね」

「うん、わかった」
私は神妙に頷く。こんなにゆったり堂々と歩いている人たちが走った日って、いったいどんなだったんだろう。
「でもさ、遅刻しそうな時とか、つい走っちゃうよね」
「いいの!遅刻しても。待ち合わせにちょっとくらい遅れてもいいのよ。それなのに日本人は交差点の向こうから、一生懸命走ってくるのよねー。走らなくていいって言ってるのに」
なるほど。日本人と待ち合わせすることが多いMちゃんは、その人に向けられるのと同じ視線を浴びちゃうのね。

「でもさ、交差点でパパパーってやられたらやっぱり走っちゃうよね」
「いいの!パパパーくらい。うるさいわね、私歩いているのよって言ってやりなさい」
はい。わかりました。

Mちゃんの教えを守って、交差点では、青なら進む。赤なら車をにらみつけながら進む。の修行に励む私なのだった。
人も車もごちゃごちゃ。イタリア街

そうは言っても、癖になっちゃった行動というのは、なかなか変わらないものだ。地下鉄を降りる時、私はついメトロカードを握り締めてしまう。 ニューヨークの地下鉄は一律料金で乗り放題。メトロカードを改札に通すのは入る時だけで、出る時は何も見せなくていいのに。日本の改札で、入る時も出る時も定期券を見せていた習慣が抜けないのだ。

そして、やっと重い回転ドアに慣れたと思ったら、引いて開けるドアにぶつかるようになってしまった。苦労して回転ドアを押しているうちに、私のカラダは、ドアは全体重をかけて押すものと覚えこんだらしい。ドアノブの所に、大きく「PULL」と書いてあっても、気がつくとドアに体当たりしているのだ。
そして、がーんと押し戻される。痛みをこらえ、お店の人の怪訝そうな視線にテレ笑いしながら、「ハロー」とドアを引いて開けて入っていく。毎度毎度で、恥ずかしいです。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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