ニューヨーク暮らしことはじめ
大ヒットした英語学習書『LIVE from N.Y.―ニューヨークをまるごと聞き取ろう!』

英語上手になった?って聞かないで

「住んでるんだから、英語上手になったでしょうね」。こう言われるのって、 「いいなー、ニューヨークに住めて」って言われるのの次くらいに困ってしまう。

「全然上手になってないよ!」
私は声を大にして言いたい。それどころか、悩みはますます深まるばかりなんである。 だいたい私は聞きたい。そういう時の「英語上手」の基準ってどこにあるんだろう。

レベル1. デリのレジの人と挨拶する
レベル2. 自己紹介で笑いを取る
レベル3. 友達と冗談を言い合う
レベル4. 盛り上がっている会話の輪の中に、自然に加わる
レベル5. イラク攻撃について、自分の意見を言う
レベル6. フセインをぶっ殺せと叫ぶ相手を説得して
      「そうか、イラク攻撃はやめるべきだね」と言わせる

1の挨拶くらいはすぐに出来るようになる。毎日繰り返すから、慣れるんだよね。2の自己紹介も、バカの一つ覚えで同じこと言えばいいし。でもそこから先ってけっこう大変だ。

友達同士の会話で炸裂する略語、隠語。テンポのいい、丁々発止のやり取り。 そこに、「それ、どういうこと?」ともたもたした口調で割り込むのは、とっても勇気が要る。

どうやって、割り込む?

「私は腸が長いから」と言おうとして、「XXが長いから」と言っちゃったり(bowelsとballsを間違えた)、「クロワッサン」がどうしても聞き取ってもらえなくて、仕方なくフランスパンを買ったり。トホホなことはいっぱい起こる。人知れず赤面しながら、先月の自分よりはなんぼかまし。と自分を奮い立たせて、当たって砕けろの毎日だ。

恋愛や人生について哲学的に語ったり、日本の政治的立場を説明したり…。そんな話をするには、すごく集中力が必要だ。慌てると文法はむちゃくちゃになっちゃうし、思ったことが表現できなくて、いつも歯がゆい思いする。時制は狂っていないか、この単語は単数なのか複数なのか、theはどの言葉につけるのか。気にしたらきりが無い。
いつも、「どっこいしょ」と高い壇に上がる時のように気合を入れないと、英語が口から出てこない。こういう状態は、いつか卒業できるんだろうか?
待ってるだけじゃ、ダメなのよ

「図々しく、どんどん話しかければいいのよ」と、皆さんおっしゃる。
そうは言うけどね。やっぱりその人、その時にふさわしい話題ってあるじゃん。とんちんかんな事言っても、会話は続かないし。
ちなみに日本人はよく、「日本ってこうなんだよー」と比較文化論的な話をしたがるけれど、殆どのアメリカ人は、そんな事には全く興味を持たないのでお気をつけあれ。

アメリカ人と結婚してアメリカに暮らして何年にもなるSちゃんでさえも、「パーティーできちんと話すために、英語を習ったら?」なんてダンナさんに言われるという。「君がスケジュールと言う時の発音は、どうもおかしい」とも。

Sちゃんですらそうなのかと、私は少し吹っ切れた。英語を使って何年暮らしても、日本語という母国語を持っている限り、「この英語で完璧」と満足できることは無いんだろうな。だいたい、失礼が無いようにしゃべったり、人生について語るなんて、日本語でだって難しいんだもの。

だからお願い。買い物している私を見て「英語上手になったじゃない」とは言わないで。英語上手って何だろう…。と私は迷宮にはまってしまうから。

英語学習書はこーんなにたくさん

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



次へ
Top



All Rights Reserved, c 2002, Shinoda Nagisa