ニューヨーク暮らしことはじめ
モデルルームの豪華家具

家具屋のお兄さん(?)は優しい。

私のニューヨーク居候暮らしは、3年か4年の間だけという期限付きだ。 ずうっと暮らす家で使う家具なら、こだわって『一生もの』を時間かけて選んで買うのだろうが、 そういうわけにもいかない。家具を持って帰るのにはすごいコストがかかるし、アメリカの家具と日本の家の規格が違いすぎるからだ。気に入った家具なので無理して持って帰ったのに、ドアからも窓からも入らなかったという笑えない話も聞いた事がある。

そんな期限付き滞在者の強い見方が、レンタル家具だ。時間をかけて探せるのであれば、フリーマーケットで掘り出し物を狙うという手もあるけど、見つけるまで部屋にイスもなく、固い床で寝るのは辛い。数年後に手放すことを前提に家具を買うというのもなんだか楽しくないし。レンタルならかえって多少の冒険もできるかもしれないし、気楽だ。

アパートが決まるや否や、不動産屋さんがいくつかレンタル家具屋さんを紹介してくれた。どの店にも日本人の店員さんが居て、家具を選ぶ手伝いをしてくれる。ベッドや食卓セットや応接セットなどひと揃いを月100ドルくらいから借りられる。1−2年のレンタルなら、安売りホームセンターで一番安い家具セットをそろえるのと同じくらいの費用だろうか? 家具の質を較べたら借りたほうが得だと思う。毎年違うものを借りることもできるしね。

レンタル家具屋さんに行くとまず「どんなスタイルがお好みですか?」と聞かれる。ちょっとテレながらも「モダンでハイテクなモノトーン基調のものが好き」と答える。けっこうこの趣味は一貫していて、私の部屋は生活感がないとよく言われたものだ。ところが、店員さんの顔がたちまち曇った。
「レンタル家具は大勢のかたに人気のあるものを主流に揃えるので、どうしてもオーセンティックでトラディショナルな感じのものになります。十年程前には、そういったミラノスタイルもあったのですが、ほとんど出なかったんです」
なるほど、私の趣味は十年前の人気の無かったスタイルなのかー。周りを見回すと確かに、ショールームの家具の主流は、ダークな木目に花模様の彫りが入っているような荘厳な感じのものばかりだ。こんなどっしりした家具をあの狭いアパートに置いたら、圧迫感がすごいんじゃないかな。いくら仮住まいとはいえ、趣味じゃない家具に囲まれて暮らすのはやっぱりいやだなあ。

念のため「イタリア家具専門店」も行ってみた。広ーいショールームに『2001年宇宙の旅』に出てくるような奇妙な家具がポツリポツリと置かれている。店員さんも『スタートレック』のようなすらりとした人たちばかり。ビンボくさい格好の私には興味が無さそうだ。
「ハーイ、家具を探しているの? 何でも聞いてね」唯一声をかけてくれたのは、左耳にピアスがずらりと並んだおかまの店員さんだった。
「どうもありがとう。とってもステキな家具だけど、レンタルはしないんですか?」思い切って聞くと
「レンタルは無いのよー、ごめんなさ〜い」と腰をくねくねさせる。
卵の殻を半分に割ったようなイスがすごく座りごこちがいい。ひとつくらい買ってもいいかなーと思って「このイスはいくらですか?」聞くと
「それは2700ドルね〜」と言われてしまった。 イスひとつで30万円以上か…。ソファなんていくらするんだろう。やっぱり買うのはとっても無理だ。目の保養だけはしっかりさせてもらって、私はまたレンタル家具屋さんに戻ったのだった。

レンタル家具屋さんでも店員さんと相談しながらショールームを歩き回り、カタログを見ながら丹念に選べば、けっこういい感じの家具を選ぶことが出来た。
このイスが気に入った。 「ステキ!」と思うと値段が高かったり、ひとつなら良くても全体と合わなかったり、あーだコーダと考えるのは、なかなか楽しいものだ。たくさんおかずやお酒を並べたいので、食卓を大きなものにすることだけにはこだわって、船便でどっさり届く予定の本を収納する本棚が安く買えるホームセンターも教えてもらって、新しいアパートで暮らすことが出来るだけの家具が何とか揃ったのだった。

その後はインテリアショップの多いソーホーやチェルシーを歩き回って、ちょっとずつ小さなものを揃えている。
それにしても、インテリア関連のお店には、おかまさんがとても多いんだよね。女性的なセンスがあって力持ちの人たちにはぴったりの職業ってことかしら? おかまさんはゆっくりしゃべるし、こっちのもたもたした説明も「あらーん、こういうこと?」みたいにちゃんと聞いてくれるし、配送にも気を配ってくれるし、とってもありがたい。というわけで、インテリアショップではおかまさんについついすり寄って行ってしまう私なのだった。

絵も借りちゃいました。


written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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