ランチタイムは修行の場
アメリカ100%の会社に、たった一人の日本人として入って、なんたって一番辛いのはランチタイムだ。
私の会社では昼食は、それぞれが食べ物を持ち寄って、オフィスの真ん中にある大きなテーブルで食べる。私もお弁当持参でそこに加わるんだけど、みんなが一斉にしゃべりまくる中で、その会話に付いていくのは本当に大変だ。
「そのおかずはなあに?」なんて聞いてもらえるのは、最初の2日間ぐらいで、あとは飛び交う略語とスラングにもみくちゃにされる。みんなは周知のタレントのゴシップや懐メロの話題だって、私にはなじみがない。「何のコト話してるの?」「それってどういう意味?」 やっと会話に割り込んで、噛み砕いて説明してもらっても、さっぱり判らなかったりすることも多い。
こんなの、一生ついていけないよ〜と最初は辛かった。にぎやかな中、一言も発せられ
ずにいることの悲しさよ。本当は私はとってもおしゃべりなのに。今笑いを取ってい
る人より、もっともっと気の利いたことが言えるはずなのに…。
そんな私のおしゃべり相手に飽きずになってくれたのは、掃除の兄ちゃんアンドルー
だ。物の名前や気の利いた挨拶言葉を教えてもらった。ヤンキースの昨日の試合を見
たかとか、週末はどう過ごしたのかとか聞かれるうちに、そうやって相手にも聞けば
いいんだなということも覚えた。
20代半ばの女の子達とも喋れるようになってきた。昨日見たテレビの話題やボーイ
フレンドとのデートのこととか、割と世界共通でなじみやすい会話ができるからだ。
30代以上のお姉様方になると、話がややこしくなりすぎてちょっと難しい。いつの
日か腹を割って話せるようになりたいな、と深刻な表情で話し込むお姉様方を、私は
今日もぼんやり見つめている。
掃除の兄ちゃんアンドルーには、「いいか、いつかお前がこの会社で成功して、社長
に表彰されるような日が来たら、忘れずに壇上で、今の私があるのはアンドルーのお
かげですって言うんだぞ」と言われている。そんな日100年たっても来ないよー、と日本人らしくケンソンしながら、私は今日もしゃべりまくるみんなの中に
座っている。
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