アメリカ三面記事便り
この事件のコメンテーターの一人Brent Turveyの著作「Criminal Profiling」

妻殺しを、疑われないために

妊娠8ヶ月のレーシー・ピーターソン(27)が、クリスマスイブの朝から行方不明になっている。どうか探して欲しいと、夫や両親がテレビで繰り返し訴え始めたのは、年明け前からだった。
誠実そうなレーシーの両親と夫のスコットが、自宅居間に寄り添って座り、情報提供を呼びかける。誰からも愛されている彼女は、聡明で勇気がある。だから、きっと帰ってくると信じている、と感情を抑えて話す様子に、かえって胸が痛んだ。

「ところで、解説の○○さん」。ピーターソン家との中継が切れると、キャスターは別の中継先に呼びかける。
「この行方不明事件をどう思いますか?」
解説者はまくし立てる。
「こういう事件の70〜80%は、女性の夫や恋人が犯人なのです。彼女はもう生きていないでしょう」

余りの決め付け方に、私は驚いた。この事件はこの後もずっとこんな調子の扱いで、夫のスコット・ピーターソン(31)は、ニュースショーの格好の餌食になっている。自宅から出入りする姿は、望遠レンズで隠し撮りされ、過去は徹底的に洗われる。「警察、2人目の行方不明者に注目」という見出しの記事は、まるで連続殺人を示唆しているようだった。が、それは単にスコットの大学時代のクラスメートに、行方不明になっている女性がいるという内容だった。

スコットが浮気をしていたことが発覚すると、メディアはさらに大騒ぎになった。 レーシーの両親は、スコットと決別することを発表し、シングルマザーだという相手の女性は、マスコミに追われて記者会見を開いた。「彼は私には独身だと言っていたのです。奥さんが早く戻ることを祈っています」と、引きつった表情で言う姿は、痛々しかった。

スコット・ピーターソンが「had lied 嘘をつき」「cheating on his wife 妻を欺き」「having an affair 浮気をしていた」となると、もう全アメリカを敵に回したのと同じだ。彼が「浮気は妻も承知の上だった。行方不明とは関係ないのだ」とテレビで釈明すればするほど、メディアは彼を犯人だと決め付け、その「態度」が分析される。

・落ち着き払っていて、冷静すぎる
・話をしながら、頻繁に視線を落とす
・何かを思い出そうとして、視線が右に泳ぐ
・作り笑いをして、悲しみが見られない
・生まれる予定の子供のことを話す時も、感情がまったく動かない

これはすべて、嘘をついている証拠なのだと言う。足を開いて座り、手をひざに置いて話す姿勢も、自分をお山の大将だと思っているからだと。

「何より決定的なのは、浮気を妻が知っていたと言った事だね」。有名事件を手がけている弁護士が言う。
「妊娠8ヶ月で夫が浮気していると知って、友達や母親に相談しない女性はいないからね」
「そんな嘘がバレないと、彼は知っているのだ。つまり、彼は妻が死んでいると、知っているのだ」

今やスコット・ピーターソンは、「OJシンプソンのように」誰も味方がいない状態だという。「ちゃんとした弁護士もつけずに、あんなにペラペラしゃべっちゃだめだよ」。有名弁護士は、自己宣伝も欠かさない。

スコットにはアリバイがあり、殺人を示す証拠もない。彼は今も、妻レーシーの犬を散歩に連れ出す毎日だという。
2月10日は、レーシー・ピーターソンの出産予定日だった。が、捜査に進展は見られず、スコットがメディアに登場する回数も減ってきた。

スコットは、ほっと胸を撫で下ろしているのだろうか、それとも妻と子供を案じて気を揉んでいるのだろうか。

参考)
夫のスコット・ピーターソンへのインタビューの模様を伝える記事(ABCニュース)
行方不明のレーシー・ピーターソンに関する情報提供を呼びかけるサイト
(レーシーは2003年4月14日にサンフランシスコ湾から首無し遺体で見つかり、サイトは彼女を追悼するものに変わった)

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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