アメリカ三面記事便り
War on Iraq: What Team Bush Doesn't Want You to Know

テロ警戒報道、どこまで鵜呑みにするべきか

2月7日、テロへの警戒態勢が「テロ攻撃の危険が高い」オレンジに引き上げられた。3日分の水や食糧の備蓄をすること、家族で集合場所を決めておくこと、毛布、懐中電灯、ラジオ等を用意することに加え、毒ガス攻撃に備えて、窓の目貼り用のテープを準備することが呼びかけられている。
ニューヨークの街には急にパトカーが増え、マシンガンを持った兵士達が地下鉄内をパトロールしている。

「次は化学兵器か生物兵器が使われると予測される」
「ワシントンのスーパーでは、水が売り切れになっている」
「毒ガステロを恐れて、地下鉄の乗車率が下がっている」
ニュースは、「ドント、パニック」と言いながらも重い口調で報じる。

先週は新たに入手されたという、オサマ・ビンラディンのメッセージが、繰り返し流された。そのはっきりしない録音のくぐもった声は、得体の知れない不安感をかき立てる。

街で大量の兵士や警官を目にし、不安な口調のニュースを聞かされ続けると、いつの間にかある種の気分を受け入れるようになっている。「いよいよ戦争が始まるのだな」という諦めにも似た気分だ。テロ対策とイラク攻撃は、何の関係もないはずなのに。

FOXニュースは、イラク攻撃に賛成するアメリカ人は3分の2を越えたと言い、ニューヨークポスト紙は、イラク攻撃に反対するフランスとドイツを「Weasels イタチ」と非難する。その過激な調子には驚くばかりだ。さらにポストは、毎日センセーショナルな写真を掲載する。旅行かばんに仕掛けられた、爆弾の模型。ガスマスクをつけて、犬を散歩させる女性…。そういった写真は目を引き、ギョッとするのであるが、なぜ今テロ警戒が強化されたのかの説明は無い。

「あのメディアは、社主が親ブッシュだからね。鵜呑みにしないほうがいい」。私の周りのアメリカ人の中には、こんな風に言う人もいる。アメリカで最高の視聴率を取るニュース局と、ニューヨークを代表する新聞の報道だ。信じないと言い切る潔い態度は、私には新鮮だ。

確かに、見比べればメディアごとの論調の違いはよくわかる。2月15日の反戦デモの取り上げ方も、ニューヨークポストとタイムズでは大違い。タイムズが世界各地のデモの様子を紹介したのに対し、ポストは、ニューヨークの騎馬警官がデモ参加者にこぶしを振り上げている写真を大きく載せた。タイムズは反戦デモを世界的なムーブメントとして取り上げ、ポストは犯罪扱いだ。

私の周りでは、テロ警戒情報そのままに、買い物に走っている人は少ないようだ。近所のスーパーには、水はまだ沢山並んでいる。スーパーでショッピングカートに水を5ガロン積んでいた人も、「大雪が来るって言うから、その準備。テロは関係ないわ」と言っていた。毒ガス攻撃に備えた窓の目貼りに到っては、どうせ意味がないと笑っている人も多い。

しかし、テロ警戒態勢の強化は、週末の夜の浮かれ気分をぶち壊すには最適の方法だ。

「どこの部隊なんだい?」
「空いてるんだから、座ったらいいじゃないか」
夜の地下鉄をパトロールする兵士達は、酔っ払いのおじさんのこんな呼びかけには一切答えない。
ぎろりと車内を一瞥して、兵士達が降りて行った後
「I don't like this(こんなの、嫌だわ)」
隣に座っていた女性が、私に小さな声でつぶやいた。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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