アメリカ三面記事便り
3月22日のブロードウエイの反戦デモで

遠い戦場の遠い現実

勇ましい音楽とともに始まるニュース番組が、連日イラクの戦況を伝えている。アメリカ軍に同行している記者が、戦車の中や兵士のすぐそばからレポートを送ってくる。時々映し出されるイラクの市街地は、人の気配がなく、白々と乾いていている。そこで人が死んだり怪我をしたかもしれないなどとは、感じさせない。

有料日本語放送(主にNHK)のニュースを見れば、徹底抗戦を呼びかけているイラク国営テレビの報道や、怒りに満ちたイラク国民の様子を見ることが出来る。だが、こういった内容はアメリカのニュース番組には登場しない。

アメリカ軍がイラクに行きさえすれば、イラクは降伏するだろう。少なくとも、最初の攻撃ですぐに決着がつくだろうと、誰もが思っていたはずだ。しかし戦争は一向に終わる気配がなく、ニュースはいつも同じ調子。テレビを見なくなってしまったという人も多い。

出兵している兵士の家族が連日メディアに登場し、アメリカのために戦う彼(彼女)を誇りに思うと語る。戦死者や捕虜が出るたびに、プロフィールが詳しく紹介され、残された家族がインタビューに出ている。毎日次々と、新しい家族が登場するので、暗い気持ちになる。だが、イラク側に同じような家族が、もっとたくさんいることには誰も触れない。

戦争よりビール!という手作りプラカードも

反戦デモも頻繁に行われるようになった。手書きのプラカードを持ち、スローガンを叫びながら歩いている人たちを見ていると、不謹慎ながら何だか楽しい気分になってくる。

「No more war!」 「ノー!」
「We want peace!」 「イエース!」

ドラムを叩きながら、踊りながら歩いているので、サンバの行進のようなのだ。
ドラム隊の周りは、盛り上がる

「セプテンバー11の時、アメリカは世界中から同情されたのに、今や世界中の嫌われ者だね」
中国系の友人の皮肉に、アメリカ人は屈託なく答える。
「フランス人とどっちが嫌われ者かなあ」

会うのを楽しみにしていたのに、日本の友人は、アメリカへの旅行をキャンセルした。アメリカについてコラムを書く、ささやかなアルバイトも無くなってしまった。嘆く私に
「セプテンバー11の後も、日本人がぱたりと来なくなった。日本人はちょっと臆病すぎじゃない?」と笑う。
そう言うアメリカ人は、「怖い肺炎が流行っているから」と香港出張を取りやめたそうだ。

戦争当事国アメリカにいるのに、戦場はなんと遠く感じられることか。日本から私の安全を気遣うメールを貰うたびに、考えてしまう。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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