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米大統領選挙 マケイン候補の苦戦
持田直武 国際ニュース分析

2008年10月19日 持田直武

民主党オバマ候補が支持率を伸ばし、選挙人も過半数を獲得して当選するとの調査結果が増えた。一方、共和党マケイン候補は尻すぼみ。金融危機拡大で、支持率急落のブッシュ大統領と一蓮托生になったこと。それに選挙資金でオバマ候補に太刀打ちできないことが響いている。


・ブッシュ大統領が足を引っ張る

 投票日まで2週間余り、オバマ候補の優位が確定的になった。ワシントン・ポストが13日に発表した調査によれば、オバマ候補の支持率53%に対し、マケイン候補は43%と2桁の差になった。また、CNNの調査では、選挙人の予想獲得数でも、オバマ候補が277人で、マケイン候補の174人を大きくリードした。選挙人は総数538人、当選には過半数270人以上の獲得が必要。オバマ候補はこれを7人上回る選挙人を確保する見通しになった。

 オバマ候補優位の背景には、最近の金融危機の影響がある。ワシントン・ポストの世論調査によれば、今回の大統領選挙にあたって、有権者の53%が経済と失業を重視すると答えた。金融危機が今後さらに拡大して不況が深刻化、職場に影響が及ばないか不安なのだ。イラク問題とテロ戦争を重視する答はそれぞれ6%と5%に低下した。そして、90%が米国はブッシュ政権下で間違った道に迷い込んだと回答。同大統領の支持率は23%で史上最低となった。

 この反ブッシュの世論がマケイン候補の足かせになっている。世論調査では、マケイン候補はブッシュ大統領と同じ方向に進むと回答した有権者が51%に上った。同候補は共和党の一匹狼を自称、ブッシュ大統領はじめ共和党主流とは一線を画す立場を強調してきたが、効果をあげていないことが分かる。同候補は16日から「この8年間、彼らは成果を挙げたか?」とブッシュ政権の8年を批判するTVコマーシャルを流し始めた。ブッシュ離れの苦肉の策だが、共和党内の反発は必至だろう。


・オバマ候補の豊富なカネに太刀打ちできず

 マケイン候補劣勢の背景にはもう一つ、カネがある。15日のワシントン・ポスト(電子版)によれば、オバマ候補は8月6,700万ドル、9月に約1億ドルの献金を集めた。10月にも1億ドル以上を集めることは確実で、8月から11月4日の投票日までの献金総額が3億ドル前後になる見込みだ。これに対し、マケイン候補は公的資金8,400万ドルだけで、献金は受けない。共和党全国委員会が別枠で宣伝をするが、これを加えても資金の差は2対1の劣勢という。

 この資金の差は接戦州の勝敗に大きく響くことになる。バージニア州では、民主党候補は過去44年間勝てなかった。CNNによれば、オバマ候補も10月初めは支持率45%、48%のマケイン候補の後塵を拝していた。それが10月14日になると、オバマ候補53%と急伸、43%のマケイン候補を一気に抜いた。州内に選挙事務所を51箇所、毎日数千の運動員を動員して戸別訪問を展開した効果だった。マケイン候補の事務所は19箇所、運動員は千人余りだ。

 もう1つ、オバマ候補躍進を支えるのがTVコマーシャルだ。オバマ候補は10月6日からの1週間、3,200万ドルのコマーシャル料を支出。このうち500万ドルは12日の日曜日、メジャー・リーグのプレーオフとフットボール試合にスポット広告を入れた料金だった。また、接戦州のバージニアなど各州のローカルTV局にも隈なくコマーシャルを流す契約をしている。同じ期間、マケイン候補のコマーシャル支出は900万ドル、共和党全国委員会の支出は500万ドルである。


・誤算だったペイリン副大統領候補の選択

 ワシントン・ポストはじめ有力紙が次々とオバマ候補支持にまわったこともマケイン候補には痛手だ。東部のワシントン・ポストは17日の社説で「米国は機敏で忠実な大統領を欲しているが、金融危機にあたってオバマ候補はそれを示した」と称賛した。また、西部のロサンゼルス・タイムズと中西部シカゴ・トリビューンも17日の社説でオバマ候補支持を表明した。両紙はこれまで共和党候補を支持することで知られ、民主党候補を支持するのは初めてである。

 マケイン候補のもう1つの誤算はペイリン副大統領候補が急速に人気を落としていることだ。保守派コラムニスト、ジョージ・ウィル氏など共和党支持の著名人がペイリン候補の副大統領としての資格に疑問を表明、候補辞退を公然と迫ったこと。また、ワシントン・ポストも17日の社説で、マケイン候補が「資格のない人物を副大統領候補に選んだ」と批判。同紙が大統領候補としてオバマ候補を支持し、マケイン候補を支持しない理由の1つに挙げた。

 米の新聞はこれから次々と候補支持を打ち出すが、東部、西部、中西部を代表する上記3紙がオバマ候補支持を打ち出した意義は少なくない。マケイン候補にとってまさに八方塞がりとみえる。11月4日の投票日まで残すところ2週間余り、同候補に有利なオクトーバー・サプライズが起きるか。それとも、ブラッドリー効果(注)が起きて、世論調査には現れなかった白人票が大量にマケイン候補に流れ込むか。そんなことでも起きない限り、マケイン候補が勝つ目はないようにみえる。

(注)ブラッドリー効果
世論調査で黒人候補者が高い支持率を取っても、実際の投票に それが現れない現象を指す。1982年のカリフォルニア州 知事選で黒人候補ブラッドリー氏がこの現象に見舞われて敗北。 同氏にちなんで、ブラッドリー効果というようになった。


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