2008年10月12日 持田直武
米国民の間に、1929年の大恐慌再来の不安が広まった。共和党のブッシュ政権では、現在の金融危機を収拾できないと見ているのだ。大恐慌の時も、共和党のフーバー大統領は混乱収拾に失敗。次の民主党ルーズベルト大統領が終止符を打った。オバマ候補はその役割を担えるだろうか。 ・拡大する米国民の危機感
大恐慌は1929年10月24日と29日、2回にわたる株の大暴落が引き金となった。フーバー大統領が就任して1年目だった。同大統領は共和党保守派で古典派経済学の信奉者。政府が経済に介入することを極端に嫌った。このためか、打つ手が後手に回った。国内産業保護のため関税を引き上げると、貿易相手国が反発して報復関税で逆襲、恐慌の拡大に拍車をかけたと非難されたこともある。混乱は長引き、同大統領が退陣した1933年の時点で、次のような数字が残った。 「大恐慌になる可能性が大きい」 21% 「大恐慌になる可能性がかなりある」 38% 「大恐慌の可能性はあまりない」 29% 「大恐慌の可能性は全くない」 13%可能性が「大きい」と「かなりある」とを合わせると59%。つまり10人に6人が最近の金融危機拡大を見て、大恐慌再来の不安を感じている。この世論が大統領選挙戦に反映、民主党のオバマ候補の支持率は53%、共和党マケイン候補の45%に大きく差をつけた。また、ブッシュ大統領の支持率は24%、過去のCNNの調査の中で最低だった。有権者は、大恐慌時の共和党フーバー大統領と現在のブッシュ大統領を重ねて見ている。 ・オバマ候補はルーズベルトの役割を担えるか
ブッシュ大統領が来年1月20日までの任期中、現在の金融危機を解決する可能性はまずないだろう。危機が表面化したのは9月からだが、同大統領が打った手はすべて後手に回り、危機の拡大を抑えられなかった。上院が10月1日、7,000億ドルの金融安定化法案を可決してから10日までの間、ブッシュ大統領は6回にわたって声明や記者会見をして収拾を試みたが、ウオール街は反応しなかった。そして、ダウ平均株価はこの間20.8%も下落した。 ・政府の介入を嫌うのは大恐慌時代も今も同じ
こうしてルーズベルト大統領が成立させた計画の中には、緊急銀行安定法や全国産業復興法、公共事業促進法、農業調整法、テネシー川流域開発公社法など、いずれも政府が経済の現場に直接介入するものが多い。政府の介入を嫌い、市場の自由を重視する共和党フーバー政権の下では考えられないことだった。当時の連邦議会は上院も下院も民主党が圧倒的な多数を占め、ルーズベルト大統領が望んだとおり短期間で法案を通過させたことも幸いした。 ・当選した場合のオバマ候補の課題
現在の民主党は政府の経済介入も必要ならやむを得ないという議員が多い。10日のCNNによれば、議会は11月の選挙で上下両院とも民主党が過半数を維持する見通しだ。特に上院では民主党が60議席以上を確保、議事妨害を排して法案通過の絶対権を握る可能性もあるという。実現すれば、ルーズベルト政権時代の議会と同じになる。オバマ候補が当選すれば、この有利な条件の下で金融危機の収拾に取り組める。問題はルーズベルトに匹敵する力があるかだ。
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