メインページへ戻る

南北関係の緊張深刻化
持田直武 国際ニュース分析

2008年12月7日 持田直武

北朝鮮と韓国の李明博政権の対立が深刻化。北朝鮮は12月1日から軍事境界線の通行を制限、開城工業団地の韓国側関係者の半数を追放した。背景には、李明博大統領が打ち出した経済協力政策に対する北朝鮮側の不満や、韓国民間団体が北朝鮮に向けて続けているビラ散布への苛立ちがある。


・北朝鮮は韓国の核交渉優先に不満

 李明博大統領は今年2月の就任後、対北朝鮮政策を根本的に変えた。前任の金大中、盧武鉉両大統領の政策はいわゆる太陽政策で、北朝鮮との関係改善を優先し、経済支援を増やして交流を活発化することを重視した。しかし、核交渉を重視する米ブッシュ政権とは歩調が合わないなどの批判があった。こうした点を踏まえ、李大統領は就任2ヵ月後の今年4月、訪米してブッシュ大統領と会談。そのあと、北朝鮮との経済協力について次のような4大原則を発表した。

1、 北朝鮮との経済協力は、核交渉の進展に合わせ段階的に進める。
2、 経済的妥当性を重視する。
3、 財政面で負担可能な範囲で実施する。
4、 国民的合意があることを条件とする。

 北朝鮮はこの4大原則に強く反対した。核交渉が経済協力より優先するからだ。この発表に先立つ4月1日、北朝鮮は労働新聞の論評で、李明博大統領に対し、南北間の6.15共同宣言と10.4宣言を遵守するよう要求。無視するなら「朝鮮半島の平和はない」と警告した。この2つの宣言は金大中、盧武鉉両大統領が金正日総書記と調印し、関係改善と経済協力を優先的に推進することを約束したもの。北朝鮮はこの約束を守るよう事前に要求したのだが、李大統領は応じなかった。


・反北団体のビラ騒動も加わって関係悪化

 北朝鮮はその後も機会あるごとに6.15共同宣言と10.4宣言の遵守を要求。しかし、韓国側は核交渉の進展を優先する方針を変えない。もっとも、盧武鉉大統領が10.4宣言で約束した経済協力は大規模で、協力内容も鉄道、道路補修、資源開発など総花的。韓国統一部が9月に出した推計によれば、宣言で約束した事業をすべて履行するには政府と民間を合わせ、14兆3,000億ウオン(約1兆円)の予算が必要。財源の目処も立たないという事情もあった。

 10.4宣言は、盧武鉉大統領が退任4ヶ月前になって平壌を訪問し、金正日総書記と調印したいわば李明博政権への置き土産。協力の総額は、盧武鉉大統領が5年間の在任中、北朝鮮に提供した人道支援や経済協力の費用2兆ウオンの7倍にも相当する額だった。李明博大統領としては、新たに打ち出した4大原則の手前もあり、簡単に応じられない額だ。しかし、北朝鮮側はこうした李明博大統領の姿勢を、南北首脳会談の宣言を無視するものと非難、態度を硬化させた。

 この南北のぎくしゃくした関係をさらに複雑にしたのが、韓国の民間団体による北朝鮮向けビラ散布問題だ。風船にビラを吊るし、北朝鮮向けに飛ばすことはすでに5年ほど前から続いていた。最近になって、金正日総書記の健康悪化説が広まると、ビラもその内容が中心になり、北朝鮮当局を苛立たせている。10月2日、板門店で開催した南北軍事実務会談の席上、北朝鮮代表は散布の中止と責任者の処罰を要求。ビラ散布が続けば、開城工業団地の営業に影響が出ると警告した。


・労働新聞は一触即発の激動状態と報道

 北朝鮮はまた、李明博大統領が訪米中の11月16日「自由民主主義体制による朝鮮半島統一が最終目標」と発言したことにも反発。北朝鮮の祖国平和統一委員会は22日、李明博大統領が「最終目標として、北朝鮮に対する侵略戦争を宣言したのと同じ」と非難した。南北統一については、金大中大統領と金正日総書記が00年6月に調印した6.15宣言で「南北の民族同士が自主的に解決する」ことで合意している。李明博大統領の発言はこの合意を覆すものという非難だ。

 李明博大統領の下で南北関係が緊張することは予測されていた。同大統領が金大中、盧武鉉と10年間続いた対北融和政策を転換すれば、北朝鮮だけでなく、韓国内でも金大中大統領や野党民主党が反発するのは明らかだった。韓国民間団体が北朝鮮向けのビラ散布をする現場には、散布を阻止しようとする団体が押しかけ、小競り合いを演じるようになった。南北政府間の対立が、韓国内の与野党、民間団体間を巻き込んで対立の裾野を拡大している。

 11月24日の労働新聞は南北の現在の状況について「対決と緊張の一触即発の激動状態」と伝えた。その一方で、米中は金正日総書記の健康悪化説に基づいて、ポスト・金正日体制への準備を進めていることが明らかになっている。こんな時、韓国がこのような状況に陥っているのは好ましいことではない。今の動きは、6.15宣言で合意した「同じ民族同士が自主的に解決する」との精神からも大きく外れ、朝鮮半島情勢の主導権を失いかねない。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2008 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.