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米大統領選挙 序盤を読む
持田直武 国際ニュース分析

2008年1月13日 持田直武

アイオワ州党員集会とニューハンプシャー州予備選挙で、有権者は「変化」を求めた。クリントン候補は党のエスタブリッシュメントの側からこれに応えようとし、オバマ候補は新興勢力をバックにこれに取り組もうとしている。論争の勝者が党候補の座を獲得するだろう。これに対し、共和党は保守各派に分裂、各候補は論争の焦点を絞ることも出来なかった。


・米国民は不況を予測して変化を渇望

 米有権者の最大の関心がイラク問題から経済に移っている。8日のニューハンプシャー州予備選挙当日、世論調査会社が合同で実施した出口調査によれば、民主、共和両党の支持者が最も関心を持つ問題は次のようになる。

  民主党 1.経済(38%) 2.イラク(31%) 3.医療(27%)
  共和党 1.経済(31%) 2.イラク(24%) 3.移民(23%)

 ワシントン・ポスト紙(10日電子版)によれば、同紙が11月に実施した全国規模の調査では、イラク問題が経済問題より2対1の割合で関心が高かった。12月の調査では、イラク、経済が同率で並び、今回のニューハンプシャー州予備選挙の出口調査で、上記のように経済がトップになった。関心が経済に移ったのは、年明け早々、株価が急落、失業率は5%と2年振りの高さに上昇、低所得者向けサブ・プライムローン破綻の不安も拡大、不況の恐れが強まったことが影響している。

 ワシントン・ポスト(10日電子版)は、この状況下で行われる今回の選挙は「変化」がキーワードになると予測した。各種調査でも、民主党、共和党を問わず有権者が現状からの「変化」を望んでいるとの結果が出ている。民主党では、オバマ候補がこの流れをいち早く読んで、自分が「変化」を体現する候補であると売り込み、アイオワ州党員集会で勝った。一方、クリントン候補も「経験に基づいて変化を促す」と反撃して、ニューハンプシャー州予備選挙で勝利。両候補が「変化」をキーワードに今後も鍔迫り合いを続ける様相になった。


・共和党は四分五裂の状態

 この民主党両候補の競り合いが、党員集会と予備選挙の参加者を大量に増やしたことも注目しなければならない。3日のアイオワ州党員集会に参加した民主党と共和党の支持者の数を前回と比較すると次のように民主党が圧倒的に増えている。

   民主党      党員集会参加者  

  前回2004年  12万4000人  

  今回2008年  22万0588人

	
   共和党       

  前回2000年   8万7666人   

  今回2008年  11万4000人

 上記でみるように、民主党のアイオワ州党員集会参加者は12万から22万人台へと驚異的な伸びを示した。オバマ候補が「変化」を訴え、これまで政治とあまり縁がなかった24歳以下の女性を中心に党内無党派層を狩り出したこと。また、クリントン候補が夫のクリントン元大統領時代からの支持母体をバックに、党のエスタブリッシュメント勢力を再活性化させたことなどが影響している。両候補が今後も鍔迫り合いを続けることによって民主党の支持層がさらに拡大すると見られる。

 この民主党の動きに対し、共和党はまだ選挙戦のテーマを絞り込めない。AP通信は9日、この状況について「共和党は党内で2つの予備選挙をしている」と皮肉を込めて報じた。ハッカビー候補とロムニー、トムプソンの3候補が妊娠中絶など社会政策の是非をめぐって議論する一方で、マケインとジュリアーニ両候補が共和党に対する忠誠をめぐって論争。この2つが並行して進行しているというのだ。共和党はイデオロギーと、ブッシュ大統領の後継者の選択面の双方で分裂状態なのだ。


・初の女性大統領か、または初の黒人大統領か

 共和党は80年代初め、レーガン元大統領の下で保守各派が大連合を形成した。だが90年代、南部保守派が離反。今回の選挙では、保守派が統一して支持する候補がまだ決まらない。同党の保守派は、ブッシュ大統領の選挙を支えたキリスト教福音派、妊娠中絶や同性結婚に反対する社会保守派、減税と小さい政府を主張する経済保守派、強い米国を掲げる安保保守派などがある。レーガン時代、各派は冷戦に勝つため団結したが、最近は対立することも多くなった。

 アイオワ州党員集会では、ハッカビー候補が勝ったが、その勝因は(学校教育を拒否し、子弟を家庭で教育する)ホーム・スクーラーが草の根で地道な活動を展開したことが大きい。しかし、共和党内の経済保守派はハッカビー候補がアーカンソー州知事時代に増税を繰り返したと批判するテレビ広告を流し、同候補の勝利を妨害した。同候補がかねてから高給を取る企業経営者を批判、減税を主張する団体「経済成長クラブ」を「欲張りクラブ」と嘲笑したからだった。

 共和党がこの四分五裂状態を脱しなければ、勝ち目はない。しかし、共和党にはそれを促す力を持つ候補者が居ないことも間違いない。全国規模で支持率1位のジュリアーニ候補は妊娠中絶を容認、社会保守派と相容れない。アイオワ州で勝利したハッカビー候補は上記のように経済保守派と犬猿の仲だ。また、ニューハンプシャー州で勝利したマケイン候補はブッシュ大統領はじめ現在の党主流と反目している。この状況では、民主党から米国初の女性大統領、または初の黒人大統領が出ても不思議ではない。


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