メインページへ戻る

6カ国協議 北朝鮮核申告の評価
持田直武 国際ニュース分析

2008年7月6日 持田直武

米のニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストが北朝鮮との核交渉を評価する社説を掲載した。核施設の無能力化で核兵器用プルトニウムがこれ以上増えなくなることを重くみたのだ。タイム誌はブッシュ政権の楽勝とまで言い切った。テロ支援国指定という実質的意味がない代物をエサに、大魚を釣ったというのである。


・核兵器用プルトニウムの生産停止を評価

 北朝鮮は6月26日、核計画の申告書を6カ国協議議長国の中国に提出した。そして翌27日、寧辺核施設のシンボルだった原子炉冷却塔を爆破した。申告した核計画はプルトニウム核計画に限定した内容。爆破した冷却塔はその生産施設のシンボル。北朝鮮はこのシンボルの爆破によって、廃棄はプルトニウム核計画に限定することを明確にした。6カ国協議が昨年10月の合意で要求したウラン核計画と核技術の海外移転疑惑はうやむやになった。

 この北朝鮮の動きについて、ワシントン・ポストは28日の社説で「寧辺の核施設を破壊した結果、北朝鮮は核兵器用プルトニウムを生産できなくなった。これだけでも議論の余地のない進展である」と評価した。また、ニューヨーク・タイムズも27日の社説で「ブッシュ大統領が就任以来6年間北朝鮮との交渉を拒んだ結果、北朝鮮は核兵器を開発した。今回、米外交陣の努力によって北朝鮮に核放棄を説得するチャンスが生まれた。交渉が成功すれば、世界はより安全になる」と評価した。

 だが、北朝鮮が核放棄の決断をしたかどうかについては、両紙とも疑っている。ニューヨーク・タイムズは「ウラン核開発やシリアとの核開発協力を除外するなど、北朝鮮の行動には多くの疑問があり信用できない。核兵器放棄の決断をしたのか、それとも時間稼ぎに交渉しているのか、わからない」と不信感を表明。一方、ワシントン・ポストも「北朝鮮が約束を守らず、言い逃れや、嘘を繰り返していることから見て、核兵器を放棄する意思はないと思わざるをえない」と判断している。


・大統領の功績か外交陣の功績か

 核計画の申告には不満があるものの、核施設の無能力化を評価する論調は多い。28日付けのタイム誌(電子版)は「外交交渉の勝敗はどちらが多く得点したかで決まる。今回はブッシュ政権の楽勝だった」と評価した。今回実現する「核施設の無能力化」はクリントン政権が94年に合意した「核施設の凍結」よりも効果的に核分裂物質の製造を阻止できる。しかも、北朝鮮が見返りに得たのはテロ支援国の指定解除で、これは米政権が過去10年間、交渉材料として持っていたものだという。

 タイム誌は「テロ支援国の指定という措置は極めて政治的な代物」と主張する専門家の意見を紹介。例え指定を解除しても、米政府が制裁を必要と判断すれば別の方法で制裁することが可能だと説明している。そして同誌は「ヒル国務次官補は北朝鮮にテロ支援国指定解除という実質的には意味がない代物を与え、引き換えに核施設の破壊を勝ち取った」と評価した。こうした双方の得点内容から見て、ブッシュ大統領は今回の交渉では明らかに勝者だという。

 これに対し、ニューヨーク・タイムズの見解はやや違っている。同紙は「ブッシュ大統領が交渉を拒否している間に、北朝鮮はプルトニウムを蓄積し核実験をした」と同大統領の責任を厳しく指摘。「その後、米外交陣が自由に交渉できるようになり、北朝鮮に対して核放棄を説得チャンスが生まれた」と述べて、今回の功績はヒル国務次官補をはじめとする米外交陣にあるという主張を展開している。北朝鮮核問題の進展を外交実績としたい同大統領には手痛い逆風である。


・日本が拉致問題で独自の道を探るべき時

 米は北朝鮮の核申告と並行して、北朝鮮のテロ支援国指定解除の措置を取った。この結果、日本人拉致事件に関連して、日本が期待していた北朝鮮に対する圧力が取り除かれるのは間違いない。ワシントン・ポストは上記社説の中で「米政府関係者はテロ支援国指定解除には実質的な意味はないと言うが、日本の世論は苦々しい思いを噛み締めることになった」と伝えた。しかし、他の主要メディアで、テロ支援国指定解除と拉致問題を関連させて伝えたものは見当たらない。

 ライス国務長官は26日付けのウオール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿、今回の一連の事態について「外交の成果」と自賛した。しかし、拉致問題には一言も言及しなかった。代わって発言したのは、ブッシュ大統領だった。同大統領は洞爺湖サミットに出発する前の7月2日、日本人記者団をホワイトハウスに招き、「拉致問題に関心がなかったら、横田めぐみさんの母早紀江さんをホワイトハウスに招かなかった」と述べ、拉致問題解決を重視する立場は今も変わらないと語った。

 だが、ブッシュ政権は同大統領の発言とは裏腹な方向に進んでいる。大統領が抱く関心は政権の関心ではなくなった。マスメディアはその結果を評価し、ブッシュ政権の楽勝と書きたてた。ブッシュ大統領の任期は残す所半年、北朝鮮の核問題の多くは次期大統領の課題となって残る。次期大統領がオバマ、マケインのどちらになっても、拉致問題でブッシュ大統領と同じ関心を持つとも思えない。日本は米に頼らぬ独自の交渉の道を探ることが必要だ。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2008 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.