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核兵器のない世界への展望
持田直武 国際ニュース分析

2009年10月4日 持田直武

国連安保理が9月24日「核兵器のない世界」を目指す決議を採択した。非核化が世界各国の共通の義務であることを初めて確認したことになる。提案したオバマ大統領が認めるように「困難なしに実現できない」のは確かだが、核廃絶への目標を設定できた意義は大きい。


・核廃絶の努力は国連加盟国の義務

 今回の国連安保理決議は「核兵器のない世界」の実現を国連の目標として設定、これに向かって各国に協力を呼びかけた点に特徴がある。具体的には、NPT(核拡散防止条約)に基づいて、次のような協力を各国に要請した。1、核保有国は軍縮に努めること。2、すべての国が核拡散防止に協力すること。3、CTBT(核実験全面禁止条約)の早期発効やカットオフ条約(核分裂性物質の生産禁止)の交渉開始に協力すること。4、違反があった場合、国連安保理が対応にあたること。

 核兵器廃絶で、まず鍵になるのは核保有国、中でも最大の核兵器保有国である米とロシアの軍縮努力だ。両国は91年発効のSTART1(第一次戦略兵器削減条約)で核弾頭の削減を開始。現在までに、米は戦略核弾頭の配備を約3,600発余に削減、ロシアは4,200発余に削減した。同条約は今年12月に期限が切れるが、両国は7月の首脳会談で、今後7年間にそれぞれの核弾頭配備を1,500−1,675発に削減する後継条約START2を結ぶことですでに合意した。

 NPTは米ロだけでなく、英仏中3カ国も核保有国として認め、現在3カ国はそれぞれ数百発の戦略核弾頭を保有している。3カ国は現在のところ核軍縮を実施していないが、米ロの核軍縮がさらに進めば、3カ国もこれに加わることが期待されている。NPTもこれら米英中仏露5カ国の義務として誠意を持って核軍縮を進め、最終的には核廃絶を達成するよう求めている。国連安保理の「核兵器のない世界」決議がそれを後押しする追い風になるとの期待は大きい。


・北朝鮮の核放棄は米の核放棄が条件

 「核兵器のない世界」を目指す上で、もう1つの鍵は核兵器の拡散を防ぐことだ。この分野では北朝鮮とイランが当面の対象となる。北朝鮮はNPT加盟国だったが、93年に秘密の核開発が発覚すると、脱退を宣言。その後06年に最初の核実験、今年5月に2回目の核実験を敢行。国連安保理はその都度制裁を科した。今回の安保理決議はこれらの行動を核拡散防止に対する義務違反として再確認。国連安保理が北朝鮮の責任を追及するとの立場を明確にした。

 これに対し、北朝鮮は9月30日外務省報道官が談話を発表、「決議は核大国の覇権的野心の産物」として拒否。その上で「我々は米国の核の脅威に半世紀以上も曝されて止むを得ず核兵器を持った。このため、米の核が無くならない限り、我々は核兵器を放棄しない」と主張、さらに次のように述べた。「米が北朝鮮に対する核戦略を放棄し、核兵器のない世界を築くのと並行して、朝鮮半島の非核化の努力をする」。北朝鮮は最後まで核放棄をしないと言うに等しい。

 北朝鮮はかねてから米と対等の核保有国として核軍縮交渉をすると主張してきた。外務省報道官の談話はこの主張に基づいて、将来米朝2国間の核交渉や、米ロなどの核保有国が核軍縮をする場合、北朝鮮も核保有国として交渉に加わるとの示唆とみることができる。金正日総書記が9月18日、中国の戴秉国国務委員との会談で「核問題解決のため、2国間または多国間の対話に応じる」と述べたのも、この意味だったろう。北朝鮮の核問題は一筋縄では行かない難関だ。


・イランがロシアでのウラン濃縮に応じた謎

 北朝鮮の核問題が難航する一方で、イランの核問題も単純ではない。イランは10月1日、米はじめ国連安保理常任理事国5カ国とドイツ、いわゆるP5+1との会談で、ウラン濃縮の一部をロシアやフランスに委託する案に同意した。P5+1側はイランに対してウラン濃縮の完全停止を要求、応じなければ新たな制裁を科す構えだった。だが、イランは濃縮停止には応じなかったものの、濃縮の一部を海外に委託すると譲歩したため、P5+1側は強硬策を棚上げした。

 イランの譲歩案は、イラン国内で3.5%に低濃縮したウランをロシアに運び、19.75%まで再濃縮、これをフランスで燃料棒に加工するというもの。P5+1側は低濃縮ウランをイラン国外に出すことによって、イランが核兵器用の高濃縮ウランを作るのを阻止できるとみたのだ。イランはこの譲歩に加え、最近発覚したウラン濃縮施設の査察やP5+1側との協議を続けるなどの協調姿勢も見せた。オバマ大統領はこうしたイランの姿勢を「建設的な始まり」と評価した。

 だが、イランの突然の協調姿勢に疑問を抱く向きも多い。イランがウラン再濃縮の海外委託に同意したことで、核兵器用の高濃縮ウランを作るのを完全に防げるのか、疑問もあるのだ。イランはこれまでにもIAEA(国際原子力機関)の査察の眼を掻い潜って地下核施設を造り、濃縮ウランを製造したなどの前科がある。このため、今回の措置はP5+1側がこれまでになく強い姿勢で制裁を科す姿勢を見せたため、これを回避するための一時しのぎでないかとの疑問がある。


・最大の課題はオバマ大統領のリーダーシップ

 現在、NPTが認める核保有国は米英中仏露の5カ国だけだ。北朝鮮は核開発を開始したあと、NPTから脱退、現在数個の核爆弾を持つとみられるが、核保有国とは認められていない。一方、インド、パキスタンはNPT非加盟で現在60−70発の核弾頭を保有。また、イスラエルもNPT非加盟で保有を公表しないが、100発前後の核弾頭を持つとみられる。核兵器のない世界を築くにあたって、これらNPT非加盟国の核放棄を如何にして実現するかも見逃せない課題だ。

 今回、国連安保理が採択した「核兵器のない世界」決議はこれらNPT非加盟国に対して、NPTに早期加盟して、核放棄に応じるよう求めている。加盟国になれば、原発などの産業分野や医療部門などで数々の核の平和利用の権利が享受できる。これを誘引にしてNPT非加盟国に核放棄を促している。だが、インド、パキスタン、それにイスラエルの核兵器開発は地域の領土紛争や中東情勢と密接にからんでいる。これら地域問題の解決なしに核兵器を廃棄できるとは思えない。

 課題は多いが、中でも最大の課題は、オバマ大統領のリーダーシップだ。核廃絶への世界の世論は、オバマ大統領が4月のプラハ演説で「核兵器のない世界」を提唱して以来、今回の国連安保理決議まで、同大統領が1人でリードしてきた。だが、米国では世論は必ずしも核廃絶で一本化していない。米上院が核廃絶への一里塚といわれるCTBT(包括的核実験禁止条約)を批准するかどうかさえも不透明だ。米の世論がオバマ大統領のリーダーシップを支えなければ、世界の世論はしぼんでしまう。


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