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オバマ大統領の岐路、アフガニスタン戦争
持田直武 国際ニュース分析

2009年10月18日 持田直武

オバマ大統領がアフガニスタン駐留米軍の増派問題で苦慮している。タリバンの武装勢力が支配を拡大、現地の米軍司令官は伸るか反るかの正念場として大幅増派を要請している。だが、政権内の意見は分裂。民主党内も一本化しない。


・現地司令官は「十分な増派がなければ負ける」と警告

 アフガニスタン駐留米軍のマクリスタル司令官は8月30日、ゲーツ国防長官に戦況について報告書を提出した。極秘扱いだったが、ワシントン・ポスト紙が9月21日にスクープし、一部を除き内容が明らかになった。それによれば、同司令官はこの報告書で「今後1年間に十分な米軍の増派がなければ、8年間続けたアフガニスタン戦争は失敗に終わる」と警告した。拡大するタリバンの勢いを早く阻止して戦況の主導権を握らなければ勝利の望みはなくなるというのだ。

 マクリスタル司令官はこの報告では増派の具体的な数について触れなかった。しかし、米メディアの報道によれば、最低でも1万人、今後の戦況によっては6万人の増派が必要になるとの判断だという。現在、アフガニスタンに展開する米軍は約6万8、000人。他にNATO(北大西洋条約機構)加盟国の部隊3万2,000人が駐留している。だが、同司令官はこの兵力でタリバンが展開するゲリラ戦を抑え込むには不十分で、増派がなければ負け戦になる可能性が高いという。

 また、マクリスタル司令官はこの報告書でタリバン勢力が次の3グループに分かれて活動していることも報告している。1つは、タリバンの最高指導者オマール師が率いるクエッタ・グループで、パキスタン中部の町クエッタが拠点。オマール師はここに「アフガニスタン・イスラム首長国政府」の本拠を置き、アフガニスタン各州に「影の知事」を任命しているほか、イスラム法「シャリア」に基づく裁判所を設置し、地域の住民から税金を徴収、ゲリラ兵士の募集もしている。


・パキスタン情報機関筋がタリバンを支援

 もう1つのグループはアフガニスタン南東部からパキスタン国境にかけて活動するハッカニ・ネットワーク。パキスタンやペルシャ湾岸のアラブ諸国から資金とゲリラ兵士を調達している。また、アル・カイダなど外国人テロ組織と連携して活動。マクリスタル司令官は報告書で「このグループとアル・カイダの関係が最近急速に深まり、将来アフガニスタンにテロ組織の根拠地を再建する場合、その中心的な役割を果す可能性がある」と警告している。

 3番目のグループはソ連占領時代のゲリラ部隊司令官でイスラム党党首ヘクマチアル元首相のグループ。現在もアフガニスタン3州とパキスタンにゲリラの拠点を維持しているが、支配地をこれ以上拡大する動きはしていない。マクリスタル司令官によれば、ヘクマチアル元首相の狙いは将来タリバン政権がカブールに復帰した際に、政権の主要なポストに就き、アフガニスタンの鉱物資源の利権を得ること、また東側に抜ける密輸ルートの支配権を確保することだという。

 マクリスタル司令官は上記タリバン3グループの動きを説明したあと、「現在タリバンの活動はアフガニスタン国内が主だが、その背後にパキスタン国内の支援がある」と断定した。同司令官は根拠として「タリバンの主要幹部のほとんどがパキスタン国内に潜伏し、パキスタン情報機関(ISI)関係筋の支援をうけているとの情報がある」ことを挙げた。イスラム諸国からゲリラ戦士や自爆テロ要員、爆薬専門家などがパキスタン経由でアフガニスタンに潜入するのもこのためだというのだ。


・増派をめぐってワシントンの意見は分裂

 マクリスタル司令官は報告の最後の部分で「適切な対応が緊急に必要だ」として次のように強調した。「適切な兵力を投入しなければ、戦争は長引き、犠牲者は増え、戦費は膨張し、結果として政治的支持も失う。そして、アフガニスタンへの米軍派遣は失敗だったということになる」。同司令官はこう協調して、オバマ大統領に対して決断を促した。だが、オバマ大統領の対応は遅々として進まない。政権内が増派をめぐって分裂、民主党内も意見が一本化していないのだ。

 オバマ大統領は8月30日付けのマクリスタル司令官の報告書が届いたあと、関係者の会議を5回にわたって開催した。また、10月6日には民主・共和両党の議会指導者を招いて協議した。だが、オバマ大統領が決断を下すには至らなかった。政権内では、ゲーツ国防長官とクリントン国務長官が軍司令官の要請を尊重するよう主張しているが、反対も多い。中でも、外交通を自認するバイデン副大統領が増派に疑問を表明、戦争目的をアル・カイダの掃討に絞るよう主張している。

 一方、議会では、共和党がマケイン上院議員をはじめとして増派支持でまとまっている。しかし、肝心の与党民主党はリード上院院内総務が増派支持を表明しているが、上院軍事委員会のレービン委員長、それに下院のペロシ議長など幹部議員の多くが増派に慎重な姿勢を表明。米軍の増派よりも、経済の安定や民生の向上などを重視するべきだという意見や、アフガニスタン軍と治安部隊を増強してアフガニスタン人自身の国防能力を高めるべきだなどの意見が出ている。


・政権の浮沈が懸かかるオバマ大統領の決断

 この雰囲気の中、オバマ大統領は増派問題にほとんど触れない。アフガニスタンでは、かつてのソ連がカブールの左派政権を支えるため1979年から10年間10万の軍隊を派遣、反政府ゲリラと戦ったが、惨敗。これがソ連崩壊の一因になったと言われている。当時、米がゲリラ側を支援し、パキスタン経由で武器や資金を供給した。この戦争開始から今年で30年、今米軍を増派すれば解決が早まるのか、それとも長期化するのか。オバマ大統領の決断に同政権の浮沈が懸かることになった。


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