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オバマ大統領のノーベル賞受賞に異論
持田直武 国際ニュース分析

2009年11月1日 持田直武

ノルウエーのノーベル賞委員会が10月9日オバマ大統領に平和賞を授与すると発表してから3週間。米国内では賛否両論が続出、世論調査では受賞反対が61%、賛成は34%だった。受賞理由となった「核兵器のない世界」提唱について、米国内の複雑な反応が背景にある。


・ノーベル賞委員会が挙げた受賞理由に疑問

 USA Today 紙とギャラップ世論調査所が10月16日から19日にかけて実施した世論調査によれば、米国民の61%がオバマ大統領のノーベル賞受賞に反対、賛成は34%だった。CNNテレビが20日に発表した世論調査でも、受賞反対は56%、賛成は42%だった。その一方で、同調査ではオバマ大統領が受賞者に選ばれたことに誇りを持つという答が70%に上った。同大統領が受賞することには賛成しかねるが、受賞者に選ばれたことに誇りを持つというのだ。

 この曲折した世論の背景には、オバマ大統領にはまだ平和賞を値する実績がないのではないかとの疑念がある。同委員会が授与の理由として挙げたのは、オバマ大統領が「多国間外交を国際政治の主流に復権し、核兵器のない世界という目標を掲げて核軍縮を目指している」ことだ。しかし、同委員会がこの授与理由を発表した翌日、ワシントン・ポスト紙は「オバマ大統領は核廃絶の目標を設定したが、それ以上のものはない」として目標決定だけで授与する意図に疑念を表明した。

 平和賞授与の基準は、賞の創設者アルフレッド・ノーベルの遺志に基づいて次のような3項目が決まっている。「授与の前年、国家間の友好増進に功績を残したこと、常備軍の解体や削減に功績を挙げたこと、平和会議の開催や推進に功績を挙げたこと」である。オバマ大統領が上記に相当する功績を挙げていないのは明らかだった。同大統領は「核兵器のない世界」構想を掲げ、国連安保理決議を成立させたが、これらはまだ功績とは言えず、目標を掲げただけに過ぎないからだ。


・米国内には内政干渉との不満も

 だが、ノーベル平和賞委員会は、オバマ大統領に功績がないのを知りながら受賞者に選んだことも明らかになる。同委員会は初め上記の選考基準に基づいて各国政府や識者、過去の平和賞受賞者から候補者の推薦を募った。推薦の締め切りは2月5日だったが、誰もオバマ大統領を推薦しなかった。同委員会はノルウエー議会が任命する5人の委員で構成、委員長は与党労働党の実力者ヤーグラン元首相。同委員長がオバマ大統領を特別枠で候補者に入れたとみられている。

 その時点で、オバマ大統領は大統領就任後わずか2週間、功績があるはずもない。ところが、ノーベル賞委員会はその9ヶ月後、オバマ大統領を今度は受賞者に選らんだ。同委員会のアゴット・バレ委員はウオールストリート・ジャーナル紙のインタビューで「受賞は、同大統領の核軍縮推進の姿勢を評価した結果だ。9月の国連安保理で『核兵器のない世界』決議を成立させたことも影響した」と説明した。米国内では、ノーベル賞委員会がオバマ大統領の核政策を支持したのと同じと受け取った。

 オバマ大統領は「核兵器のない世界」を掲げ、安保理決議を成立させたが、米議会が同様の決議をしたことはない。10月31日の朝日新聞によれば、ノーベル平和賞委員会のヤーグラン委員長は同紙のインタビューに答え「平和賞授与はオバマ大統領が目指す『核兵器のない世界』を後押しする狙いがあった」と語ったという。米民主党系のコラムニスト、ジム・ホーグランド氏は11日のワシントン・ポストで「平和賞の授与は米国政治への干渉」と批判したが、こう受け取る向きがあっても無理はない。


・平和賞返上論や議会の承認論も登場

 ノーベル平和賞は過去の功績が対象の筈だったが、今年は今後の目標に対して授与することになる。しかも、核廃絶という安全保障の最も機微に触れる問題で、ノーベル平和賞が廃絶推進の後押しをすることになった。核廃絶に慎重だった米ブッシュ政権の強硬派ボルトン元国連大使は「大統領はノーベル賞を返上するべきだ」と反発している。また、共和党のブラウン‐ウエイト下院議員など3議員は26日、オバマ大統領に手紙を送り「受賞する場合、議会の同意を求めよ」と主張した。

 米憲法は第1条第9節で、公職者が外国から贈り物を貰う際の次のような規定を設けている。「何人も米政府の下で報酬または信任を伴う官職に在る者は連邦議会の同意なしに国王、王侯、あるいは外国から如何なる種類の贈与、俸給、官職、称号を受けてはならない」。ブラウン‐ウエイト議員は「ノーベル賞委員会はノルウエー議会が任命した委員で構成する国家機関。従って、この機関から賞を受けることは、国家から贈与を受けるのと同じで、連邦議会の同意が必要になる」と言うのだ。

 この手紙に対し、オバマ大統領はまだ返事をしていない。ただし、同大統領は10月9日受賞の決定を聞いた時、賞金は慈善事業に寄付すると即断した。米政府の公職者勤務規定では、外国から一定以上の贈り物を受けた場合、国家の所有に帰すことになっている。従って、同大統領は賞金を慈善事業に寄付できない筈なのだ。同大統領が言うように受賞は「予想外」だっただけに、対応も混乱したのかもしれない。だが、受賞対象の「核兵器のない世界」構想は混乱なしに推進してもらいたい。


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