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オバマ新大統領の選択(1)中東和平への道
持田直武 国際ニュース分析

2009年1月11日 持田直武

イスラエルとハマスが国連決議を無視して戦闘を止めない。両者は、ハマスがイスラエルの存在を認めず、イスラエルはハマスのガザ支配を認めないという、不倶戴天の敵同士。米でオバマ政権が発足、和平圧力が強まることを見越し、その前に可能なかぎり相手に打撃を与えることを狙っている。


・ハマスの狙いはパレスチナ和平構想の阻止

 戦闘は12月19日、ハマスがイスラエルに対するロケット攻撃を再開したことが発端となった。エジプトの仲介で続いた6ヶ月間の休戦がこの日で切れた。ハマスがそれを機に攻撃を再開。最大射程40キロのロケット弾を多い日は1日約130発、ガザの境界からイスラエル領内に向けて発射した。これに対し、イスラエルは12月27日から空爆で反撃。さらに1月3日には、イスラエル地上軍がガザに進攻してハマスの拠点を攻撃、ハマス武装勢力と全面衝突の状態となった。

 国連安保理が1月8日、停戦を要求する決議をしたが、双方とも応じていない。イスラエルはハマスがロケット攻撃を停止することが先決と主張。これに対し、ハマスはイスラエルによるガザの封鎖解除などを要求して対立が解けない。国連安保理では、イスラム諸国がハマス支持。米ブッシュ政権は徹底してイスラエルを擁護し、8日の停戦決議にも他の全理事国が賛成する中、米だけが棄権した。退任間近のブッシュ大統領がイスラエルに対して示した最後の連帯行動だった。

 イスラエルの狙いは、これを機にハマスの勢力を徹底的に叩くことだろう。イスラエルや米が描くパレスチナ和平構想は、アッバス議長の自治政府が全自治区の支配権を握り、イスラエルと共存することを目指している。そのためには、ガザを支配しているハマスの勢力を無力化しなければならない。ハマスはこの構想の阻止を目指し、そのハマスの背後には、イスラエルの抹殺を主張するイランが控えている。今度のロケット攻撃の再開もイランの思惑が絡んでいる。


・ハマスはシリア・イスラエルの和平交渉阻止も狙う

 イランはシリアとともに、ハマスやレバノンのヒズボラの反イスラエル活動を支援してきた。しかし、この4者の反イスラエル同盟にも最近亀裂が入った。シリアが2年も前からイスラエルと秘密裡に和平交渉を進めていたことが分かったからだ。シリアのアサド大統領が08年4月、カタールの新聞、アル・ワタンとのインタビューで、この事実を確認。一方、イスラエルもその1ヵ月後、オルメルト首相の報道官が秘密交渉を続けていることを認めた。

 シリア、イスラエル双方の説明によれば、交渉はトルコが仲介し、07年2月から始まったという。ただし、この交渉はシリアとイスラエル両国代表が直接話し合う直接交渉ではなく、トルコ政府の代表が両者の間を取り持つ間接交渉だった。シリアのアサド大統領は、その理由について「米国だけが両国の直接交渉を保証できる。しかし、ブッシュ政権には和平に関するビジョンもなければ、その意思もない。従って、米の次期大統領が就任するまで直接交渉は待つしかない」と主張した。

 アサド大統領がこの発言をしたのは08年4月。当時、米大統領選挙は予備選挙の段階で、民主党オバマ候補が有利な態勢を固めていた。アサド大統領の発言は、この状況を読んだ上で次期大統領に対する期待を表明したのだろう。オバマ次期大統領が就任すれば、この期待に如何に答えるかが課題となる。ハマスが今回のイスラエル攻撃で狙った標的の中には、米・イスラエル主導のパレスチナ和平構想だけでなく、このシリアとイスラエルの和平交渉も含まれている。


・オバマ新大統領は如何なる選択をするか

 シリア・イスラエル間の和平成立は、パレスチナ和平にも好影響を及ぼすのは間違いない。両国間には、イスラエルが67年の中東戦争で占領したゴラン高原の返還問題など難問もあり、短時日の解決は期待できない。しかし、07年9月、シリアが北朝鮮の協力で核施設を建設中との疑惑が浮上、イスラエル軍機が空爆して破壊したが、和平交渉はこの危機をすり抜けて継続している。シリアが交渉継続に価値を置き、オバマ次期大統領の仲介にも期待していると見てよいだろう。

 オバマ次期大統領の補佐官によれば、次期大統領は就任後100日以内にイスラム諸国を訪問、その際イスラム諸国に対する包括的な新政策を公表する準備をしているという。同次期大統領は当選後、ブッシュ大統領の立場を尊重して政治的な発言を極力控えてきた。しかし、選挙戦ではイスラム諸国と友好を深める手段として、イスラム諸国に「アメリカ・ハウス」を設置して英語を教える案や米国の価値観を広める「アメリカの声部隊」の創設などを提案した。

 その一方で、次期大統領は選挙戦中の去年6月、イスラエルを訪問、「2人の娘が眠る我が家がロケット攻撃されれば、私は全力で阻止する」と述べ、ハマスの攻撃に対するイスラエルの自衛権を擁護した。次期大統領がこの立場に余りこだわれば、ブッシュ大統領と同じイスラエル一辺倒と評価されるに違いない。現に、イスラエルのバラク国防相は空爆開始後の12月29日、このオバマ次期大統領の発言をそのまま引用してイスラエルの空爆を正当化した。次期大統領の就任後もこれが続けば、和平の仲介者としては失格だ。


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