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オバマ政権の賭け、アフガニスタン米軍増派
持田直武 国際ニュース分析

2009年2月22日 持田直武

オバマ大統領がアフガニスタン駐留米軍を増派した。武装勢力タリバンの勢力拡大を阻止するため、緊急の対策が必要との理由だ。だが、軍事力だけでは解決しないとの見方もある。30年前、ソ連が大軍を派遣、10年間戦って成果なく撤退した先例もある。米軍が前車の轍を踏まないとの保障はない。


・オバマ大統領の戦争開始

 オバマ大統領は17日、アフガニスタン駐留米軍を1万7,000人増派する決定をした。「タリバンの勢力拡大を阻止し、治安を回復する緊急対策が必要」との理由である。増派によって、駐留米軍は5万3,000人となる。駐留米軍のマキアナン司令官が3万人の増派を要請した経緯があり、今後も増派が続く見通しだ。アフガニスタン駐留米軍は、ブッシュ前大統領が01年の9・11テロ事件後、派遣を開始したが、オバマ大統領が増派を決定したことでオバマの戦争となった。

 アフガニスタンには、米軍のほかNATO(北大西洋条約機構)軍指揮下の英軍やドイツ軍など3万2,000人も駐留し、今回の米軍増派で総兵力は8万5,000人となる。だが、米はじめ各国は、アフガニスタンの問題を軍事力だけで解決することは不可能という見解で一致している。オバマ大統領も17日、カナダ放送(CBC)とのインタビューで「軍事力だけで解決できるとは思っていない」と強調し、民生安定などを含め、支援範囲を拡大することを示唆した。

 中東全域を管轄する米中央軍のペトラエウス司令官も8日、ミュンヘンで開かれたNATOの会議で、兵力増派に加え「民生面の活力強化が必要」と主張。戦火と混乱で疲弊した村落の再建や、警察官の訓練、政府高官の汚職防止、麻薬の原料となるケシの栽培の取り締まり強化など、広範囲な取り組みが必要だと強調した。同司令官はさらに、アフガニスタンで外国軍隊が勝利した例が過去に無いと指摘。民生面の支援が不足すれば、成功する可能性は低くなると警告した。


・タリバン主力部隊が首都近辺に迫る

 タリバンは90年代前半、旧ソ連軍が撤退したあとの混乱の中、イスラム神学校の生徒を中心に結成。武装闘争の一方で、困窮した市民への奉仕活動なども行って勢力を拡大。96年にイスラム法(シャリア)に基づく国家を建国した。米とは一時良好な関係だったが、01年の9・11テロ事件のあと、同事件の容疑者ビン・ラディンを匿って、ブッシュ政権と対立、政権の座を追われた。しかし、最近ふたたび組織を再建、主力部隊が首都カブール近辺まで迫っている。

 米軍によれば、タリバンの武装部隊は約1万人。アフガニスタン人口の半数を占めるパシュトゥン族が中心。根拠地はアフガニスタン北東部、パキスタンとの国境を挟んだ山岳地帯だ。この地域はパキスタン側にもパシュトゥン族が定住する半独立地帯で、タリバンの聖域である。米軍が01年、アフガニスタンに進攻した際には、この地域の約1万人が米軍と戦うため越境したという。また、タリバンの最高指導者オマール師やビン・ラディン容疑者の潜伏先とも見られている。

 オバマ政権がタリバンの勢力を一掃し、アフガニスタンの治安を確保するには、この聖域の掃討が不可欠。それには、パキスタン政府との緊密な協力が必要だ。しかし、現状は必ずしもそうなっていない。16日には、パキスタン政府が同地域の武装勢力と和平協定を締結、武装勢力が同地域をイスラム法で支配することを認めた。パキスタン政府としては、同地域の治安維持のため取った措置だが、米にとってはタリバンの勢力拡大を支援するのと同じ措置である。


・惨敗したソ連軍の二の舞にならないか

 アフガニスタンではソ連が79年、左派政権を支援するため10万の軍隊を派遣、反政府ゲリラと10年間戦って惨敗した。米国がゲリラ側を支援、実態は米ソの戦争だった。米CIA(中央情報局)の働きかけで、中東イスラム諸国の青年がゲリラに参加、パキスタンで訓練を受けて戦場に向かった。このゲリラを母体にして9.11テロ事件の容疑者ビン・ラディンのアル・カイダや現在のタリバンが生まれた。それ以来、アル・カイダやタリバンがパキスタンに聖域を持つことになる。

 ソ連軍が撤退して20年、米がソ連に代わってタリバンと対決している。米国家情報省のブレア長官は12日の議会証言で「カルザイ大統領の政権はひ弱な上に腐敗し、このままではタリバンの勢力拡大を防ぎきれない」と強調した。中央政権の権威が失墜して地域の軍閥が力を増し、民衆のタリバン支持が息を吹き返しているという。同長官はこの趨勢を変えるには、パキスタンとの国境地帯にあるタリバンの聖域を一掃し、国境の管理を厳しくしなければならないと強調した。

 オバマ大統領は近くカルザイ政権も交えてアフガニスタン政策の見直しをする。今後の米軍の増派や、民生活性化、パキスタンとの協力のほか、ロシアなどとの協力問題も取り上げる。17日のクリスチャン・サイエンス・モニターは、かつてアフガニスタンに駐留した旧ソ連軍の幹部が「アフガニスタンでは、軍事力は何の役に立たない。今の米国の政策では駄目だ」と語ったと伝えた。オバマ大統領が如何なる新政策を打ち出すか、ソ連の二の舞を避けられるかの正念場がくる。


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