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朝鮮半島の緊張高まる
持田直武 国際ニュース分析

2009年3月8日 持田直武

朝鮮半島が北朝鮮のミサイルと米韓合同軍事演習をめぐって緊迫している。日米は、北朝鮮がミサイルを発射すれば、撃墜する事態もあり得ると主張。一方、北朝鮮は米韓合同軍事演習の期間、韓国の民間航空機の安全を保障できないと警告した。双方とも直接行動を匂わせての対決である。


・韓国民間航空機の撃墜を匂わせて対決

 朝鮮半島で昨年来続いてきた対立が極点に達している。対立の焦点は、9日から始まる米韓合同軍事演習と北朝鮮のミサイル発射準備だ。このうち軍事演習について、北朝鮮の祖国平和統一委員会は5日の声明で、「米韓が合同軍事演習を強行するなら、北朝鮮の領空周辺を飛行する韓国民間航空機の安全を保障できない」と主張した。同軍事演習は米軍2万6,000人、韓国軍3万―4万が参加、イージス艦や原子力空母も動員して、韓国全土で9日から20日まで実施する。

 これに対し、北朝鮮は「演習は北朝鮮に対する核戦争を準備するものだ」と主張、再三中止を要求してきた。しかし、米韓側は「演習は防衛的なもの」として予定どおり実施する方針を変えない。5日の祖国平和統一委員会の声明は「向こう見ずな演習を強行すれば、軍事衝突が起きかねない」と米韓の姿勢に反論。その上で「演習期間中は韓国民間機の安全を保障できない」と主張した。米の通信社の中には、「北朝鮮が韓国民間機を撃墜するかもしれない」と伝えた社もある。

 米韓合同軍事演習は冷戦時代の76年から続く恒例行事で、初期の呼称はチーム・スピリットだった。北朝鮮はこの演習を米の敵視政策の象徴と非難。94年の米朝枠組み合意で最初の核放棄を決めた際にも、北朝鮮はチーム・スピリットの中止を要求。当時のクリントン政権が条件付で応じた経緯がある。今回も北朝鮮は板門店の米朝軍事代表による会談で、米韓合同軍事演習を北朝鮮に対する敵視政策の1つとして中止を要求。オバマ政権の出方を見ているとの見方もある。


・日米はミサイル撃墜を否定せず

 北朝鮮が韓国民間機の撃墜を匂わせるのに対し、日米は北朝鮮のミサイル撃墜もあり得るとの立場だ。北朝鮮の発射準備の動きは2月初めから米韓の情報機関が確認。その後、北朝鮮は通信衛星の発射準備だと主張。弾道ミサイルだと主張する日米韓と対立している。しかし、発射物体が北朝鮮の主張どおり通信衛星を宇宙軌道に乗せるロケットだとしても、弾道ミサイル計画と関連する全ての活動を禁止した06年10月の国連安保理決議に違反することは間違いない。

 日米韓はこの判断に基づいて、北朝鮮が発射した場合の対応を検討している。その1つが、ミサイルの撃墜である。浜田防衛相は2月27日の記者会見で、北朝鮮がミサイルを発射した場合の対応について「今回のことでどうこうではなく、前から検討している」と述べ、ミサイル防衛システムを稼動して迎撃することを認めた。また、米のゲーツ国防長官も10日の記者会見で「北朝鮮がテポドンを発射すれば、ミサイル防衛を発動して迎撃する態勢を取る」と述べた。

 日米が北朝鮮のミサイルを迎撃すれば、北朝鮮は報復攻撃に出るに違いない。北朝鮮メディアは再三にわたって「断固とした措置を取る」と伝えている。これに対し、韓国の李相憙国防長官は2月20日の議会答弁で「北朝鮮がミサイル攻撃や砲撃を加えて来た場合、その発射基地を攻撃する」と述べ、北朝鮮領内への反撃も辞さないとの立場を表明した。これまでは、言葉による非難と反論の応酬だったが、最近の動きには武力衝突の可能性を否定できない深刻さがある。


・日本が単独制裁に踏み切る場合も

 北朝鮮がミサイルを発射すれば、もう1つの対応として制裁が課題になる。日米韓は国連安保理による制裁を期待しているが、今のところ中国とロシアが支持しない可能性が高い。3日の韓国聨合ニュースによれば、中国とロシアは韓国政府に対して「北朝鮮が人工衛星を打ち上げた場合、制裁を加えるのは難しい」という立場を伝えたという。北朝鮮が人工衛星打ち上げと主張しているのを考えると、中ロは国連安保理による制裁を支持しないと考えなければならない。

 訪中した中曽根外相も1日、北京市内で温家宝首相と会談、制裁への支持を求めたが不調に終わった。この会談で、同外相は「北朝鮮が人工衛星の打ち上げと主張しても、国連安保理決議違反する」と述べ、新たな制裁を科すべきだとの日本政府の立場を伝えた。これに対し、温家宝首相は「ミサイル発射の自制を求める」との立場では、日本と一致した。しかし、同首相は安保理による制裁問題についてはまったく言及せず、日本とは立場を異にすることを暗に示した。

 このため、日本は国連安保理が制裁を決議しない場合でも、独自の制裁を科すことを検討している。ミサイルの脅威がこれ以上増大するのを阻み、北朝鮮が約束した拉致被害者の再調査実行を迫るなどの狙いからだ。その具体的措置として、朝鮮総連など北朝鮮関係団体の資産凍結や北朝鮮への輸出を原則的に禁止するなどの案が浮上している。だが、日本がこうした措置を取れば、北朝鮮も報復するとかねてから予告していることも念頭に置く必要があるだろう。


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