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北朝鮮の通信衛星打ち上げ宣言の背景
持田直武 国際ニュース分析

2009年4月5日 持田直武

北朝鮮が取り組んでいることが2つある。1つは、長距離ミサイルの完成。もう1つは、核弾頭の小型化。これを組み合わせて、米本土に届く長距離核ミサイルを造る。同時に、日本を狙う中距離ミサイル、ノドンにも核弾頭を装着する。今回の通信衛星の打ち上げは、その技術開発の役割を担っている。


・打ち上げは日米を狙うミサイル技術の開発

 北朝鮮のミサイル開発が今回ほど国際外交の焦点になったことはない。ロンドンで4月1日から開催した金融サミットでは、麻生首相とオバマ大統領は各国首脳との会談で必ずこの問題に言及、注意を喚起した。北朝鮮は打ち上げたのは平和目的の通信衛星と主張しているが、日米韓はじめ関係国はそう見ていない。今回の打ち上げは、北朝鮮が続けてきたミサイル開発と核開発が最終段階に達し、日本や米本土に届く核ミサイルの完成が近いことを示すと見て警戒している。

 もともと、北朝鮮のミサイル開発は日米に対抗する手段として始まった。故金日成主席が1965年、ミサイル技術者を養成するハムフン軍幹部学校を設立。その際「第2の朝鮮戦争が勃発すれば、必ず日本と米国が介入する。それを防ぐためにはミサイルが必要だ」と訓示した。金正日総書記もこの訓示の主旨を引き継ぎ、日本に照準を合わせた中距離ミサイル、ノドンを開発。そして今、米本土を射程内に入れるテポドン2号の開発が最終段階に入っている。

 北朝鮮はこれと並行して1980年代から核開発も推進し、06年10月には核実験に成功した。米国防情報局(DIA)のメープルズ局長が3月10日、上院軍事委員会で明らかにした分析によれば、北朝鮮はさらに核爆弾を小型化してミサイルに搭載できるように改良した可能性があるという。近い将来、核弾頭を搭載したノドンが日本に照準を合わせ、同時にテポドン2号が米本土を狙って配備されることになりかねない。日米が神経を尖らせるのは当然ということになる。


・中国が国連安保理決議の鍵を握る

 だが、これに対抗する国際社会の足並みは揃っていない。日米韓3カ国は、北朝鮮が通信衛星を打ち上げたあと、直ちに国連安保理の開催を要求。打ち上げは、北朝鮮のミサイル関連活動を禁止した06年の安保理決議に違反するとして、制裁を検討するよう主張している。しかし、北朝鮮と関係が深い中国は「状況の悪化を避ける」として日米韓の強硬姿勢に距離を置いている。今後、国連安保理がどのような方向に動くのか、拒否権を持つ中国が鍵を握ることになった。

 このため、オバマ大統領は1日、ロンドンで胡錦濤主席と会談。この席で、同大統領は「北朝鮮が発射すれば、安保理で対抗措置を取る」との方針を示し、協力を要請した。これに対し、同主席は発射に懸念を表明したが、対抗措置については態度を明らかにしなかった。オバマ大統領はこのあと、フランスのサルコジ大統領と会談して記者会見、「友好国と対抗措置をとる」と発言し、「安保理で対抗措置を取る」という立場を修正した。胡錦濤主席がオバマ大統領の方針をひっくり返した一幕だった。

 中国が強硬策を躊躇する理由の1つは、制裁すれば北朝鮮が反発し、核問題を話し合う6カ国協議が崩壊する恐れがあることだ。北朝鮮は3月24日と26日の2回にわたって外務省声明を発表、「安保理が制裁決議や非難の議長声明を出せば、6カ国協議は破綻するか、消滅する」と警告した。中国は6カ国協議の議長国として朝鮮半島の非核化を推進、同時に東アジアへの影響力を拡大してきた。6カ国協議の消滅はこの中国の立場に影響するのは必至。中国としては避けたいところだ。


・日本は核ミサイルの現実にどう対応するか

 オバマ大統領は中国の反対で国連安保理が対抗措置を取れない場合、「友好国と対抗措置を取る」との方針を表明したが、北朝鮮問題で中国が加わらない対抗措置が効果を発揮するのか、疑問は多い。北朝鮮の大量破壊兵器拡散を防止するための国際協力組織PSI(大量破壊兵器拡散防止構想)は、中国が加盟しないために効果が半減しているのが、その良い例だ。米中など主要国がそれぞれの思惑で一致した行動を取らない場合、喜ぶのは北朝鮮ということになる。

 現在のような状況が続けば、北朝鮮は今後技術的問題を解決、日本を狙うノドン・ミサイルと米本土を狙うテポドン2号ミサイルに核弾頭を搭載することになりかねない。それが現実になると分かった時、日本と米国内の危機感は想像を絶するものになるに違いない。この事態を避けるには、どうするべきか。実は、オバマ政権も確固とした北朝鮮政策を決めた訳ではない。しかも、国務省のスタッフ人事の遅れなどから見て、同政権が北朝鮮問題に置くウエイトは、これまでは軽かったとの見方さえできる。

 オバマ大統領就任から2ヶ月余、外交はクリントン国務長官を先頭に華々しく滑り出した。ところが、国務省の人事は、朝鮮半島担当の国務次官補もまだ決まっていない。北朝鮮との交渉を担当する特別代表のポストを新設して、元外交官のボスワース氏を指名した。ところが、同氏は大学学長職を兼務することが分かり、ワシントン・ポストはパートタイム大使と皮肉った。日本でも、今後北朝鮮の核ミサイルに対応するにはどうするべきかの議論が出るのは必至だろう。


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