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サイバーテロの脅威が現実に
持田直武 国際ニュース分析

2009年7月12日 持田直武

米と韓国で政府機関や民間のウエブサイトが大規模なサイバー攻撃を受けた。ハッカーグループが標的のサイトに大量のデータを一度に送りつけ、マヒ状態にした。北朝鮮による組織的な犯行との見方もあるが、確たる証拠はない。ただ、サイバーテロが国際安保の新たな課題に浮上したことは明らかだった。


・米独立記念日を狙ったテロ攻撃

 攻撃は米独立記念日の7月4日から始まり、10日現在も続いている。攻撃を受けたのはホワイトハウスなど政府機関と証券取引所、グーグルやヤフー、大手紙のワシントン・ポストなど27箇所。この攻撃で財務省のサイトは4日に接続不能になってダウン、連邦取引委員会(FTC)は5日にダウンした。また、ワシントン・ポスト(電子版)も接続不能の状態が続いた。しかし、ホワイトハウスと国防総省はバックアップ・システムを駆使してダウンを免れたという。

 一方、韓国に対する攻撃は7日から始まった。攻撃対象は大統領府など政府機関と議会、新韓銀行など大手行4行、それに大手紙の朝鮮日報など分かっただけで30機関余り、攻撃は10日現在まだ続いている。攻撃の方法は米韓とも同じで、分散型サービス妨害攻撃(DDoS)と呼ばれる手口。これは、ウイルスに感染させた多数のパソコン(ゾンビパソコン)から、標的のサイトに一度に大量のデータを発信して処理不能に陥らせる手法で、パソコン所有者は気付いていない。

 問題は、犯人は誰かだが、米国務省のケリー報道官は9日「まだ確認できない」と説明した。しかし、AP通信は複数の政府関係者が匿名で「北朝鮮が介入している」と語ったと伝えた。また、フォックス・ニュースも国防総省高官の話として「攻撃の背後に北朝鮮が存在している」と伝えた。いずれも根拠を示していないが、今回の攻撃が7月4日の米独立記念日に始まったことや、北朝鮮がこの日に日本海に向けて7発のミサイルを発射したことが、こうした見方を強めている。


・韓国情報院は攻撃命令の諜報入手と報告

 こうした米国内の見方に対し、韓国情報院は10日「北朝鮮が攻撃命令を出したことを示す諜報を入手した」と国会情報委員会の懇談会で報告した。11日の中央日報(電子版)が伝えた。それによれば、この命令は「南朝鮮の通信網を破壊せよ」として攻撃プログラムの開発などを指示する内容で、平壌当局が6月7日人民武力部偵察局傘下の110号研究所宛に出した。韓国情報院はこの諜報内容から、攻撃は人民武力部110号研究所が中心になって起こしたと報告した。

 北朝鮮は6月27日の祖国平和統一委員会が「如何なる高度技術戦争にも準備ができている」と主張、サイバー戦争への備えを示唆したが、その中心の1つが110研究所。韓国情報院の推定によれば、北朝鮮は毎年100人のハッカー要員を育成、その中の優秀な10人を選んで110号研究所に配置するという。こうした国内の拠点のほか、北京や瀋陽などでは、サイバー要員が一般の会社経営を装って活動。要員の総数は1000人を超すとの見方もある。


・サイバーテロは国際社会の新たな課題

 今回のサイバー攻撃は、北朝鮮が仕掛けたとの見方が次第に強まっている。しかし、専門家によれば、ハッカーが1人でも今回と同じ様な混乱を引き起こす可能性がないとは言い切れないという。現代社会は余りにも短期間にサイバー社会に移行、我々の生活は商取引から、金融、行政サービス、教育、エンターテイメント、あらゆる面でコンピュータ化され、我々はいわばサイバーライフを送っている。今回のサイバー攻撃は、この日常がハッカーのクリックで簡単にマヒすることを教えた。

 また、今回のサイバーテロは、いわゆる国際社会がこれまで進めてきたテロ対策にも疑問を投げかけた。米はじめ西側諸国は9.11同時多発テロ事件後、イスラム過激派を抑えることをテロ対策の主眼としてきた。しかし、今回の攻撃はそれに加え、サイバーテロへの取り組みが必要なことを示している。現代社会は爆弾テロに弱いが、それ以上にサイバーテロに対し、脆弱だ。人類は技術を進歩させて現在のサイバー社会に至ったが、同時にテロの技術も追随、さらに緻密なテロ対策が必要になった。


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