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北朝鮮の核保有、中国は容認するのか
持田直武 国際ニュース分析

2010年10月17日 持田直武

金正日総書記が三男正恩氏を加えた新指導部を発足させた。その狙いの1つは、正恩氏の後継者としての立場を固めること。そして、もう1つは北朝鮮を核保有国として国際的に認知させることだろう。中国との密接な連携はこの狙いを視野に入れている。


・核とミサイルとともに登場した新指導部

 北朝鮮は9月28日金正日総書記の三男正恩氏を含む新指導部を選出した。その翌日、朴吉淵外務次官が国連総会で演説し、「米国の脅威が続く限り、我々は核抑止力を放棄せず、一層強化しなければならない」と主張した。10月10日の労働党創立記念日の軍事パレードでは、正恩氏の後見役といわれる朝鮮人民軍の李英鎬総参謀長が演説、「米帝国主義者とその追従勢力が我々の自主権と尊厳を傷つけるなら、核抑止力を含む全ての手段で報復する」と宣言した。

 この軍事パレードには、朝鮮人民軍の中距離弾道ミサイル「ムスダン」も登場。北朝鮮は招待した外国メディアがその映像を世界に生中継するのを許可した。同ミサイルは射程3000−4000キロ、米情報機関が10年ほど前に存在を確認して「ムスダン」と命名した。北朝鮮が実戦配備しているミサイルの中では最も射程距離が長く、太平洋の米軍戦略拠点グアム島にも届く。北朝鮮がミサイルに核弾頭を搭載するとすれば、このムスダンが最初になるとみられている。

 また軍事パレードでは、中国の使節団に対する丁重なもてなしも注目された。中国は北朝鮮が新指導部を選出すると、胡錦濤国家主席が直ちに祝電を送り、「中長期的な戦略観点から両国関係を擁護、推進する」と表明。10日の労働党創立記念日には、周永康共産党政治局常務委員を団長とする使節団を派遣した。北朝鮮側もこれに応え、軍事パレードでは使節団の周団長が金正日総書記や正恩氏と並んでひな壇に立つよう設定、緊密な両国関係を内外にアッピールした。


・北朝鮮新指導部が核放棄する可能性はなし

 軍事パレードは、今の北朝鮮を支えるのは核兵器とミサイル、それに中国との緊密な関係の3つであることを示している。今後金正恩氏が後継者としての立場を固めるにあたっても、この3つのどれも捨てることはできないに違いない。中でも、核兵器は最も重要な柱で、これを放棄することなどあり得ないだろう。ワシントン・ポストによれば、クリントン国務長官が8月開いたセミナーでも、北朝鮮が核放棄をすると考える米の政策立案者や分析官は1人も居なかったという。

 実は、北朝鮮は過去3回核放棄を約束したが、実行していない。最初は1992年、北朝鮮は韓国と朝鮮半島非核化宣言に調印、核放棄を約束した。ところが、北朝鮮はその後も核施設の建設を続行。そこで94年、米が北朝鮮と枠組み合意を締結、北朝鮮は2回目の核放棄を約束した。だが、北朝鮮はこれも守らずウラン濃縮による核開発を始めた。このため、関係国が03年から6カ国協議を設置、北朝鮮は05年9月この6カ国協議共同声明で3回目の核放棄の約束をした。

 この6カ国共同声明の主旨は、北朝鮮が核兵器を放棄して、早期に(At an early date) NPT(核不拡散条約)に復帰し、朝鮮半島非核化を実現することである。また、同共同声明は、北朝鮮がこの約束を実行すれば、米は北朝鮮との関係を正常化することや、日本は日朝間の過去を清算し、(拉致問題など)懸案事項の解決と日朝国交正常化を目指すことなども規定している。だが、北朝鮮外務省は4月21日核問題についての備忘録を発表、非核化について独自の見解を打ち出した。


・北朝鮮が主張する朝鮮半島非核化

 その1つが、朝鮮半島非核化の時期についてである。この備忘録で、北朝鮮は核兵器について「外部からの攻撃を抑止し、撃退するため使用する」と規定。この任務は「朝鮮半島や世界から核兵器が無くなるまで続く」と宣言している。オバマ大統領が主唱する「核兵器のない世界」が実現する時、北朝鮮も核放棄し、朝鮮半島の非核化を実現すると宣言したのと同じだ。6カ国協議共同声明では、北朝鮮は「核兵器を早期に放棄する」と約束(Commit)したが、この時期を変えたのだ。

 NPTへの復帰についても、この備忘録は6カ国協議の共同声明とは違う主張を展開している。同共同声明では、北朝鮮はNPTに復帰する場合、核兵器を放棄して非核国としての立場で復帰し、IAEA(国際原子力機関)の査察を受けると約束した。しかし、備忘録は核拡散防止や核物質の安全管理などで「北朝鮮は他の核保有国と同じ立場で協力する」と主張。北朝鮮はNPTが規定する核保有国の立場、つまり米中などと同じ立場でNPTに復帰すると主張している。

北朝鮮外務省の備忘録は重要問題の真相を歴史的、体系的に解明し、北朝鮮の立場を明らかにする重要な外交文書だという。北朝鮮がこの備忘録を公表したのは、5月の金正日総書記訪中2週間前だ。同総書記は5月に続いて8月にも訪中し、その都度胡錦濤国家主席と会談した。新華社通信によれば、金正日総書記はいずれの会談でも「朝鮮半島非核化の方針に変わりはない」と表明。8月の会談では「胡錦濤主席も朝鮮半島非核化のため共同で努力することで合意した」という。


・中国は北朝鮮を核保有国として認めるのか

 中国が朝鮮半島非核化の時期について見解を表明したことはない。しかし、朝鮮半島非核化は中国を議長とする6カ国協議が03年の発足当初から目標として掲げ、05年の共同声明で参加6カ国全員が早期実現を目指すことを確認した。北朝鮮が備忘録で打ち出した非核化についての独自の見解はこの共同声明の主旨に反している。胡錦濤国家主席が金正日総書記との会談で「非核化実現のため共同で努力する」との約束もこの共同声明の主旨に沿ったものでなければならない。

 だが、最近の中国の異様なまでの北朝鮮擁護の姿勢からみて、中国が北朝鮮の核保有容認に傾いているのではないかとの疑念が湧くのも事実だ。KCNA(朝鮮中央通信)は8月20日、「中国の武大偉朝鮮半島問題特別代表が8月16日から18日まで訪朝して関係者と会談、6カ国協議の再開問題や朝鮮半島非核化問題について完全に見解が一致した」と伝えた。朝鮮半島非核化の時期についての見解も一致したのか今は不明だが、会議が開催されればいずれわかることになる。 


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