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中国覇権外交の拡大(2)国家の核心的利益
持田直武 国際ニュース分析

2010年11月28日 持田直武

中国が海洋権益の確保に執念を燃やしている。尖閣諸島がある東シナ海から南シナ海まで、中国は海洋権益を国家の核心的利益と位置づけ、それを守るためには軍事力の行使も躊躇しないという立場だ。中国が北朝鮮を擁護するのも、この立場の一環とみなければならない。


・南シナ海でも米と対決

 南シナ海は南沙諸島や西沙諸島など大小250余りの島や岩礁が点在する豊かな漁場だ。同時に世界有数の通商ルートでもある。海底には200億トンとも言われる膨大な油田や天然ガス、鉱物資源が眠っている。太平洋戦争時、日本軍が南沙の一部を占領してリン鉱石の開発を始めたが、敗戦で放棄。その後、国連が70年代に油田の存在を確認すると、沿岸各国が権利を主張するようになった。中でも、中国は南沙諸島の島々を次々と占拠して基地などを建設、実効支配を強めている。

 現在、中国が占拠して実効支配する島々は少なくとも8島、開発権を主張する排他的経済水域は南シナ海のほぼ全域にわたっている。中国が1958年領海宣言で南沙諸島を含む南シナ海を中国の主権下に含めたことを根拠としている。ベトナムやフィリピンなど他の沿岸国もそれぞれ領土に近い島や海域の権利を主張しているが、その多くは中国の主張と競合している。このため南シナ海の領有権問題は、中国対東南アジア諸国、アセアンとの対決という状況になった。

 この状況に対し、米オバマ政権が通商ルート擁護を掲げて介入する。クリントン国務長官が7月23日ハノイで開かれたアセアン地域フォーラムで演説し、「南シナ海の紛争解決は米国外交の最優先課題」と宣言。同長官はその理由として「紛争を解決することによって地域が安定し、通商ルートの自由も確保できる」と主張した。しかし、同長官の真の狙いはこの地域で影響力を拡大する中国を牽制し、ベトナムやフィリピンなどアセアン諸国を支援することにあるのは明らかだった。


・中国は軍事力の行使も辞さずの強硬姿勢

 クリントン国務長官はこの演説のあと中国の揚潔チ外相と会談した。米側の説明によれば、同外相はこの席で「米側が提起した問題について協議したい」と応じただけで反論はしなかったという。しかし、それから3日後の6月23日、人民日報系の英字紙グローバル・タイムズは「南シナ海を覆う米国の影」と題する社説を掲載、米国の動きは「緊張を煽り、混乱を生むだけ」と厳しく非難した。過去の例からみて、同社説が中国政府の意向を反映しているのは間違いなかった。

 この社説はクリントン長官の演説について「紛争を煽って緊張を高め、介入してプレゼンスを維持するという米外交の常套手段」と批判。「関係諸国がこの米の戦略的ガイダンスに従うなら地域を安定させることは難しい」と断言する。その上で社説は「地域には複雑な問題が絡み合っている。それを熟知する中国は相違点を棚上げして共同開発を進め、信頼感を高めるよう提案している。中国の狙いは、寛容と忍耐に基づいて関係各国と戦略的互恵関係を構築することだ」と主張している。

 社説はさらに「こうして生まれた信頼関係も、米が介入して地域諸国に米か中国かの選択を迫る結果、危機に瀕することになる。中国は成長する経済大国であり、今後米国と衝突することが増えるに違いない。軍事衝突が起きれば、その影響は地域全体に及ぶことになる。しかし、中国は自国の核心的利益を守るためには軍事的手段を行使する権利を決して放棄しない」と断言している。中国の政府系メディアが南シナ海の権益を「核心的利益」と主張するのは初めてである。


・北朝鮮も核心的利益の適用地域か

 中国が「核心的利益」と言う場合、これまでは台湾やチベット、新疆ウイグル自治区の3地域だった。しかし、上記グローバル・タイムズの社説によれば、中国はこの3地域に南シナ海を加えたほか、香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは10月2日、尖閣諸島のある東シナ海も「核心的利益」に加えたと伝えた。中国政府は公式には確認していないが、これまで台湾など3地域に限っていた「核心的利益」を周辺海域にまで拡大したとみても間違いなさそうだ。

 中国の動きでもう1つ注目されるのは北朝鮮との関係強化だ。習近平国家副主席は10月25日、中国義勇軍の朝鮮戦争参戦60周年式典で演説、「朝鮮戦争は侵略に対抗する正義の戦争だった」と強調した。そして、「中国共産党は米帝勢力が38度線を越えたため義勇軍を派遣した。中国は北朝鮮と血で結ばれた友誼を決して忘れない」と強調した。かねてからの主張の繰り返しだが、最近の中朝関係を重ねてみると、中国は朝鮮半島の統一を認めないと主張しているようにも聞こえる。

中国とロシアは9月、第二次世界大戦の歴史的事実を歪曲することに反対する共同声明に調印、「両国が主権や領土に関する核心的利益を支持し合う」と約束した。北朝鮮が核心的利益にあたるのか言及はしていないが、北朝鮮が第二次世界大戦以降、中ロの影響下に入ったことは歴史的事実だ。中ロ両国がこの歴史的事実の変更に抵抗し続けた場合、朝鮮半島の統一は厳しいものになるだろう。中国が国際社会からみれば理不尽としか思えない理由で、北朝鮮を擁護する姿勢がそれを暗示している。


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