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揺れる朝鮮半島
持田直武 国際ニュース分析

2010年12月26日 持田直武

朝鮮半島には2つの台風の眼がある。1つは北朝鮮が進める核開発。もう1つはそれを進める金正日体制だ。6カ国協議は交渉によって核開発の除去を目指したが、頓挫した。次の対応策として浮上しているのが、ポスト金正日を待って体制変革を狙う動きだ。最近の緊張の背景にはこの動きがをめぐる確執がある。


・北朝鮮は対話で核保有国の立場認知を狙う

 韓国軍が12月20日西海岸の延坪島で軍事訓練を実施した時、北朝鮮も引き金を引く寸前の態勢だった。この日、韓国軍は午後2時半から海上に向けて砲撃訓練を開始。これに対し、北朝鮮側は直前まで「訓練を実施すれば、反撃して2次、3次の予想もできない打撃を与える」と予告した。中国共産党の機関紙人民日報傘下の英字紙グローバル・タイムズはこの日の朝「韓国が砲撃訓練をすれば、北朝鮮が攻撃を加えるのは明らかで、大規模な武力衝突が起きかねない」と報じていた。

 だが、北朝鮮は引き金を引かなかった。韓国軍の砲撃訓練は一時間余り続いたが、北朝鮮側は一転して「論じる価値もない」と無視する態度を表明、攻撃を加えなかった。北朝鮮が攻撃を控えた理由について、23日付けの米紙ウオール・ストリート・ジャーナルは米政府高官の話として「中国が北朝鮮に働きかけて攻撃を思いとどまらせた結果だ」と伝えた。オバマ政権はかねてから中国に対して北朝鮮に影響力を行使するよう要求していたが、これが奏功したという評価だった。

 韓国軍はそれから3日後の12月23日、今度は首都ソウルの北東40キロ、北朝鮮との境界から南へ25キロの抱川で砲撃訓練を実施した。F15戦闘機、多連装ロケット砲、戦車などが参加する最大規模の訓練だった。3月の哨戒艦沈没や延坪島の砲撃のような北朝鮮の軍事挑発を阻止するのが狙いだという。一方、北朝鮮は金正日総書記の後継体制確立が急務。それも、核武装した後継体制造りを狙っている。武力挑発の狙いの1つは米を対話の場に引き出し、北朝鮮を核保有国として認知させることにある。


・武力挑発は対話要求の常套手段

 北朝鮮が米との対話を狙って武力挑発に出たことは過去にもあった。今回の武力挑発も、北朝鮮の狙いは軍事対決ではなく、米との対話実現にあったとみて間違いない。北朝鮮はそのために周到な準備もした。11月12日、延坪島砲撃の11日前、北朝鮮はヘッカー米ロスアラモス研究所元所長はじめ米の原子力専門家グループを寧辺の核施設に案内、遠心分離機1,000台がウラン濃縮をしている現場を公開した。ニューヨーク・タイムズがこの専門家グループの報告を11月20日報道した。

 北朝鮮はその3日後、延坪島に大規模な奇襲砲撃を加える。ウラン核開発と砲撃で緊張を煽った上で、米側を対話に引き込もうという作戦だった。米韓両国内に北朝鮮に反発する世論が高まり、両国軍が大規模な軍事演習を展開、危機感が広まった。その最中、北朝鮮は12月16日、米ニュー・メキシコ州のリチャードソン知事を平壌に招いた。そして、IAEA(国際原子力機関)によるウラン濃縮施設の査察など3項目を提案、米に対話を迫った。だが、オバマ政権はこの提案に乗らなかった。

 ホワイトハウスのギブス報道官は対話を拒む理由として「北朝鮮は口で言うよりもまず具体的な行動を取るべきだ」と主張した。核放棄に向けた具体的な行動を示せというのだ。北朝鮮が核問題を話し合う6カ国協議の席を蹴ってから丁度2年。その間、北朝鮮はIAEAの査察官を追放し、ウラン核開発を新たに始めた。そして、今年7月から6カ国協議の再開を要求するようになった。だが、日米韓はこの北朝鮮の6カ国協議再開要求は核放棄のためではなく、核保有国として認知させる狙いからだとみている。


・ポスト金正日体制をめぐる確執

 中国はこうした北朝鮮の核関連の動きにきわめて同情的だ。中国外務省の姜瑜報道官は21日「北朝鮮も核エネルギーを利用する権利がある」と主張。北朝鮮が最近公表したウラン濃縮施設の存在を暗に擁護した。これについては日米韓3国が過去の国連決議に違反し、ウラン型核爆弾の開発につながるとして警戒しているのとは対称的だ。中国は6カ国協議議長国として北朝鮮の核開発を規制すべき立場だが、最近は北朝鮮の肩を持つことが多く、6カ国協議頓挫に一役買っているとみられかねない。

 一方、中国は日米韓3国が北朝鮮の崩壊を期待して問題解決を遅らせていると批判する。人民日報傘下の英字紙グローバル・タイムズは22日の論評で「日米韓3国は金正日体制の崩壊を期待して、朝鮮半島問題を先送りしている」と批判した。「日米韓3国は朝鮮戦争以来60年間、北朝鮮が崩壊すれば、朝鮮半島問題は一気に解決すると期待して問題解決を棚上げした」と手厳しい。確かに和平協定や南北統一問題が未解決な上に、核開発問題のように新たな問題も最近加わった。

 グローバル・タイムズがこのような論評を掲げたのは、最近米韓外交関係者が金正日体制崩壊後を予測する会議を開催したことも影響している。ウィキリークスによれば、この会議は今年2月下旬ソウルで開催された。同席した米のスチーブンス駐韓大使は国務省への公電で「韓国の千英宇外交通商次官は金正日総書記が死去すれば、北朝鮮は2−3年で崩壊する。その際、中国の若い世代の指導者は韓国が主導して南北統一することを受け容れるだろうと予測した」と報告した。


・中国は北朝鮮の崩壊を座視せず

 中国がこうした米韓外交当局者の動きに不快感を覚えているのは間違いない。千英宇次官は「中国の若い世代の指導者が韓国の南北統一を好意的に受け容れる」かのように発言したと報告されているが、事実は逆のようだ。胡錦濤国家主席の後継者に内定した習近平国家副主席は江沢民前国家主席系の強硬派、北朝鮮についても朝鮮戦争以来の「血盟の友誼」を重視することで知られている。最近の中国の北朝鮮政策をみると、南北統一はもちろん、崩壊も座視しない立場とみたほうがよいのではないかと思う。


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