メインページへ戻る

オバマ大統領の重荷、アフガニスタン
持田直武 国際ニュース分析

2010年4月18日 持田直武

オバマ政権とカルザイ大統領の対立が深刻になっている。同大統領がオバマ政権の姿勢を高圧的と非難。その一方で、同大統領はタリバン側と和平交渉を進め、米軍が近く開始する大規模な軍事作戦に消極的な姿勢をかくさない。同大統領が来年7月からの米軍撤退を視野に入れ、米国ばなれを謀っているのだ。


・タリバンに鞍替えすると発言

 カルザイ大統領は4月に入って米を苛立たせる発言を連発した。オバマ大統領が3月28日前触れなしにカブールを訪問、カルザイ大統領に対して「汚職撲滅」を要求したと伝えられたあとだ。ワシントン・ポストによれば、カルザイ大統領は4月1日選挙関係者との会合で「昨年8月の大統領選挙の不正は外国が仕組んだ」と主張。その責任者として国連事務総長の特別代表代理として当時カブールに駐在していた米国人外交官ピーター・ガルブレイス氏など2人の名前を挙げた。

 カルザイ大統領の問題発言はこれだけではなかった。3日には議会で「外国が圧力をかけている」と非難。AP通信によれば、その中で「外国がさらに圧力をかければ、反乱はレジスタンスとして正当化される。そうなれば、私もタリバンに参加する」と述べたという。同大統領は「外国の圧力」と述べただけで国名を挙げなかった。しかし、5日のBBCとのインタビューでは「選挙の不正は米国が仕組んだ」などと答え、圧力を加えているのは米国だと具体的に国名を挙げた。

 昨年8月の大統領選挙では、米国はカルザイ派が票のすり替えなど大規模な不正をしたとして厳しく追求。アフガニスタン選挙管理委員会が再選挙を決めたが、対立候補が辞退したためカルザイ再選が決まった。カルザイ大統領がこの時の対立を持ち出して米を非難したのは、米に抵抗する姿勢を内外に見せるためだ。来年7月から米軍撤退が始まる。カルザイ大統領としては、それに備えて米国ばなれの姿勢を見せ、国内の支持を固めることを狙ったとみられるのだ。


・米軍のカンダハル作戦にも消極的

 カルザイ大統領の米国ばなれは米軍の軍事作戦に対する姿勢にも現れている。米軍は6月早々NATO(北大西洋条約機構)軍やアフガン治安部隊と合同で大規模なタリバン掃討作戦を南部カンダハル州で実施する。しかし、カルザイ大統領はこれに消極的な姿勢をかくさない。作戦の実施には同大統領の許可が必要だが、大統領府のオマル報道官は「大統領は軍事作戦の結果、住民が望まない事態が起きないことを条件に作戦に賛成する」と条件付きで許可することを明らかにした。

 実はカルザイ大統領は4日、軍事作戦を実施する地域の部族長など1500人を集めた集会に出席、作戦について住民の意見を聞いた。米の公共放送NPRによれば、この席で、部族長たちは「作戦で住民の犠牲が出ることや、米軍は作戦が終わると引き揚げるが、タリバンは戻って来て米軍に協力した住民に復讐すること」などを挙げ、作戦に反対した。これに対し、カルザイ大統領は「住民が納得するまで作戦は実施しない」と約束したという。しかし、この約束が実行される保障はなかった。

 アフガニスタンを管轄する米中央軍のペトラエウス司令官は「カルザイ大統領はアフガニスタンの国軍最高司令官であり、軍事作戦の指揮権を持っている」と述べ、作戦の実施には同大統領の許可が必要との見解を示している。しかし、NPRによれば、作戦を企画した米軍関係者は「すでに列車は出発した」と述べ、作戦計画はすでに動き出しており、同大統領でも停めることはできないと主張した。こうした軋轢が同大統領の米国ばなれを促進するのは確実だった。


・オバマ大統領のカブール抜き打ち訪問

 カルザイ大統領と米国の意見の違いはタリバンとの和平交渉にも見られる。和平の相手も、カルザイ大統領はタリバンの幹部が対象と主張。タリバンの最高指導者オマル師も含めているようにみえる。同大統領はこれらタリバン幹部をアフガニスタンの伝統的な政治集会ロヤ・ジルガに招く意向で、そのための接触も続けている。これに対し、米は和解の対象はタリバンの中下層の兵士が対象で、9・11テロ事件の首謀者ビン・ラディンを匿った最高指導者オマル師などは対象外だ。

 この和平についての意見の違いが軍事作戦面にも現れている。米CIA(中央情報部)はパキスタン軍のISI(合同情報部)と協力して2月初めタリバンの実力者バラダル師の身柄をパキスタンのカラチで拘束した。同師は最高指導者オマル師の右腕として知られ、カルザイ大統領が和平交渉のため接触を取ろうとした相手だった。米側は身柄拘束でタリバン指導層に大きな打撃を与えたと評価したが、カルザイ大統領は米が和平工作を妨害したと受け取っても不思議ではない。

 オバマ大統領は3月28日夜、前触れなしにカブールを訪問、カルザイ大統領と会談した。カルザイ大統領がイラン訪問から戻った直後だった。イランのアフマディネジャド大統領が3月上旬カブールを訪問し、カルザイ大統領が答礼訪問をしたのだ。カルザイ大統領は3月中旬に中国も訪問した。オバマ大統領のカブール訪問は、このカルザイ大統領の訪問外交と無関係ではない。オバマ大統領がこのタイミングでカルザイ大統領と会えば、米国ばなれに警告する以外ない。カルザイ大統領の「外国の圧力」を不満とする一連の反米発言がこのオバマ・カルザイ会談のあと噴出したことが、それを物語っている。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2010- Naotake MOCHIDA, All rights reserved.