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韓国哨戒艦の沈没事件 国際社会のジレンマ
持田直武 国際ニュース分析

2010年6月20日 持田直武

国連安保理が韓国の哨戒艦沈没問題で苦慮している。韓国は北朝鮮の魚雷攻撃で哨戒艦が沈没したと主張し、安保理が相応の措置を取るよう要求した。だが、北朝鮮は安保理が北朝鮮に不利な措置を決めれば、全面戦争も辞さずと警告。安保理がこのような国に対してどのような措置が取れるか問われることになった。


・安保理の大勢は韓国の説明に納得

 国連安保理は6月14日韓国の哨戒艦沈没事件について非公式の会合を開催、韓国と北朝鮮双方の説明を聞いた。韓国の中央日報(電子版)によれば、会合では最初に韓国代表が登壇し、韓国の合同調査団が5月20日に発表した調査結果を説明した。このあと質疑応答に移り、フランス代表が「韓国調査団の調査結果は疑いの余地がない」として、韓国の要求に従って「安保理が適切な措置を取らなければならない」と発言。米代表もこれを支持する発言をした。

これに対し、中国代表が「発言は調査に関する技術面に限ることになっている」と異議を唱え、安保理の対応に触れたフランスや米代表を牽制。ロシア代表も中国に同調した。非公式会合では、中ロの要求で安保理の対応には触れない約束だったのだという。日本代表がこんな雰囲気を転換、「合同調査団に参加した米、英、豪、カナダ、スウェーデン各国専門家の役割」について質問した。各国専門家は一様に「調査の全過程に参加、調査結果に100%同意する」と答えたという。

非公式会合ではこのあとも韓国の調査結果に対する技術的質問が続いたが、調査結果を疑ったり、否定したりする質問は出なかった。出方が注目された中国とロシア両国代表も調査結果について「もっと検討が必要だ」という趣旨の発言をしたものの調査結果自体を否定することはなく、大勢は韓国の主張を受け入れたとみられた。非公式会合はこの韓国代表の説明のあと、北朝鮮の申善虎国連駐在大使が登壇し、韓国側の主張に対する疑問点を列挙した。


・安保理の出方次第で武力行使と警告

 申善虎大使は疑問の第一として「魚雷攻撃で船を真っ二つに割る爆発があったのに魚雷の推進体が無傷で残った点」を問題にした。また、「魚雷は爆発した時、摂氏1000度の高温になるのに、『1番』というハングル文字が消えずに残ったこと」にも疑問を表明。こうした作為の結果、「哨戒艦沈没で被害を受けたのは、韓国ではなく我々だ」として北朝鮮は被害者と主張した。そして、被害者の北朝鮮が沈没現場を調査するまで安保理はこの問題を取り上げるべきではない」と主張した。

 この北朝鮮の疑問に対し各国代表から質問が噴出した。トルコ代表は「沈没から2ヶ月も経った今、なぜ現場に行くのか」と質問。また、日本代表は「沈没で46人の韓国軍将兵が命を失ったのに、北朝鮮が犠牲者となぜ言えるのか」と反論した。だが、北朝鮮代表からは説得力のある回答は出なかった。読売新聞によれば、日本代表の高須大使は会合のあと「結果は明白。韓国側はすべての質問に120%答え、説得力があったが、北朝鮮は何も説明できなかった」と指摘した。

 北朝鮮代表の申善虎大使は翌15日、北朝鮮としては異例の記者会見を開いた。同大使はその席で「韓国の調査は初めから終わりまで完全な捏造だ」と主張。「国連安保理がこの韓国の主張に基づいて我々を非難し、詰問する文書を出すなら、我々の軍隊が対応措置を取る」と警告した。北朝鮮は5月20日、最高権力機関の軍事委員会が「制裁が行われた場合、即時に全面戦争を含む強硬措置を取る」と布告。その後も事あるごとに武力行使を広言、今回は国連安保理にまで圧力をかけることになった。


・募る国際社会のジレンマ

今回の哨戒艦問題は、このような主張を展開する国に対して安保理がどのような措置が取れるのか問われることになったと言ってよい。米のゲーツ国防長官は6月6日の英BBC放送のインタビューでこの問題に言及。「北朝鮮のように国際社会の世論を無視し、国民生活も気にしない体制に対し、外交だけで問題を解決することはできない」と断言している。そして「外交交渉のしかるべき局面で軍事力を行使する用意がなければ問題は解決しない」と強調した。

しかし、ゲーツ長官は「問題はそれでもまだ残る」と言う。それは「軍事力が必要だとわかっていても、誰もそれを行使することを望まないこと、それが問題だ」と言うのだ。北朝鮮の場合、「軍事力を行使すれば、北朝鮮が崩壊、または第2の朝鮮戦争になるのは確実で、それは誰も見たくない」と主張する。ところが、「北朝鮮はそんな事態になることも辞さないように見える。そのような体制の国と正常な話し合いができるとは思えない」と同長官は語っている。

米にとって、今の北朝鮮は「話し合いもできないが、軍事力行使もできない」というジレンマになっている。また、北朝鮮の唯一の友好国と言われる中国にとっても、北朝鮮はジレンマの原因になっているに違いない。温家宝首相は5月末の訪日の際「朝鮮半島が混乱すれば、中国にも影響が及ぶ」と述べ、混乱阻止が中国の至上命題との見解を示した。しかし、今の北朝鮮の行動が地域の安定を乱しているのは間違いなく、これは中国の期待に反するのも間違いないからだ。


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