メインページへ戻る

北朝鮮で何が起きているか
持田直武 国際ニュース分析

2010年9月19日 持田直武

北朝鮮が予告した労働党代表者会議がまだ開かれない。同会議で「党最高指導機関を選出する」とのことだった。西側では、金正日総書記の3男ジョンウン氏がこれを機に後継者として表面に出るとの見方が強まった。だが、同総書記は8月に訪中した際、「西側の間違ったうわさだ」とジョンウン氏後継説を否定したという。


・後継問題で米政府は正確な情報を持たず

 北朝鮮をめぐる情報を見極めるのは難しい。金正日総書記の後継者をめぐる情報もその例外ではない。日米韓はじめ西側では、労働党代表者会議が開催されれば、総書記の3男ジョンウン氏が何らかの形で後継者として登場するという見方が圧倒的だった。日米韓のメディアはこの見通しのもと、北朝鮮国内では同氏をそれとなく称える歌が広まっているとか、同氏の愛称が口伝で広まっているなどと報じてきた。ところが、金正日総書記はこれらを「西側の間違ったうわさ」と一蹴したという。

 この金正日総書記の発言は、同総書記が8月に訪中して中国指導部と会談した席で出たという。9月6日になって、温家宝首相がカーター米元大統領と会談した際この発言を紹介。同元大統領が帰国後、自身が運営するカーター・センターのウェブサイトに13日付けで訪中報告を公開し、この中で温家宝首相の話として金正日総書記の発言を取り上げた。カーター元大統領は「この話には驚いた」と感想を述べ、「北朝鮮の権力継承の真実を知るにはもっと時間が必要だ」とコメントした。

 カーター元大統領の訪中報告が出た3日後の16日、上院外交委員会はオバマ政権の北朝鮮担当者を呼んで公聴会を開いた。この席で、国務省のキャンベル次官補は「北朝鮮は基本的に情報のブラックボックスだ」と説明。共和党大統領候補だったマケイン上院議員が「キム・ジョンウンが後継者になるのか」と質問すると、同次官補は「あなたと同じような推測しかできない」と答えた。中国が後継問題についても情報を得ていると見られるのに対し、オバマ政権の立ち遅れは明白だった。


・オバマ政権内に広がる危機感

オバマ政権が立ち遅れているのは後継問題の情報だけではない。北朝鮮との対話の動きもなくなり、これが情報収集の低下にもつながった。3月に起きた韓国の哨戒艦沈没事件以後、同政権は大規模な軍事演習と経済制裁で北朝鮮を押さえ込む政策を重視し、対話への動きを見せなかった。ワシントン・ポスト(電子版)は16日「この政策を続ければ、北朝鮮国内で強硬派が力をつけて核兵器開発を加速、あるいは韓国を攻撃するなど冒険に走るとの懸念が日米韓の間に高まっている」と伝えた。

こうした懸念を背景に、クリントン国務長官は8月末北朝鮮政策の担当者と情勢分析官の合同セミナーを開催し、これまでの政策を再検討した。出席者の1人がワシントン・ポストの記者に語ったところによれば、クリントン国務長官はこのセミナーで「経済制裁と大規模軍事演習の2本柱だけでは戦争になってしまう。もう1本の柱として北朝鮮との対話が必要だ」と強調。今後は経済制裁強化と大規模演習、それに対話という3本柱で北朝鮮政策を進める方針になったという。

北朝鮮問題担当のボスワース特別代表が12日から日本や韓国、中国の歴訪を始めたのはこうした背景もある。しかし、6カ国協議再開など対話の見通しがあるわけではない。オバマ大統領は「対話のための対話はしない」という建前を依然崩さず、6カ国協議再開についても、北朝鮮が05年の6カ国協議共同声明に沿って早期核放棄を確約することが前提という立場を変えない。しかし、上記セミナーで北朝鮮が核兵器を早期に放棄すると考える政策立案者や分析官は1人も居なかったという。


・韓国はG−20会議を控え緊張緩和を急ぐ

 オバマ政権が立ち遅れている一方で、韓国は積極的に北朝鮮との接触を始めた。北朝鮮の水害に対する支援をはじめ、離散家族の再開の動き、南北軍事実務者会談の動きなど李明博政権発足以来はじめての活発な動きが起きている。背景には、11月中旬ソウルでG−20(20カ国地域首脳会議)を開催することがある。韓国が日米中ロはじめ主要国首脳が参加する国際会議を主催するのは始めてで、会議を成功させるためには北朝鮮との協調も不可欠だ。

 1988年のソウル・オリンピックでは、北朝鮮は否定しているが、韓国側の調査では、北朝鮮工作員が大韓航空機を爆破し、開催を妨害した。今回のG−20でも、何らかの動きがあるとの疑いが出ている。上記の米上院外交委員会の公聴会で、キャンベル国務次官補も「韓国の哨戒艦沈没事件がG−20に関連する動きの可能性がある」と主張した。北朝鮮関係の情報を見極めるのは難しい。G−20関連のこうした情報も「西側の間違ったうわさ」であるように願うしかない。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2010- Naotake MOCHIDA, All rights reserved.