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米大統領選挙 共和党の候補者選び最終局面へ
持田直武 国際ニュース分析

2011年12月18日 持田直武

ギングリッチ元下院議長が共和党の大統領候補に指名される可能性が出てきた。党内最大勢力の保守派が支持する候補が次々と失速し、党長老の元下院議長にお鉢がまわってきた。だが、党指導部は困惑を隠さない。元議長は型破りの行動とこわもてで知られ、好感度には欠ける。このまま共和党候補に指名されれば、民主党候補のオバマ大統領が最も喜ぶことになる。


・ティー・パーティがギングリッチ躍進に一役

 12月15日のギャラップ世論調査所の発表によれば、共和党大統領候補の指名争いで1位は元下院議長のギングリッチ候補(68)で支持率29%、2位は元マサチューセッツ州知事ロムニー候補で24%だった。調査は12月10日から4日間にわたって実施した。ギングリッチ候補は5月に立候補を表明したが、運動の基本戦略をめぐって選対幹部と対立する混乱が続き、支持率は1桁台が続いた。それが11月半ばに一転、各種世論調査で支持率1位に躍進し、その後も各社の世論調査で20%台後半から30%台前半の高支持率を保っている。

 ギングリッチ候補の躍進は、それまで1位だった元ピザ・チェーン店会長ケイン候補がセクハラ事件で失脚、同候補を支えていた草の根運動ティー・パーティの支持票が大量に流れたことが影響している。ギャラップの調査では、ティー・パーティ支持者の47%がギングリッチ支持にまわり、ロムニー候補を支持しているのは17%だという。共和党の大統領候補指名争いはこの2候補のほか、下院議員のロン・ポール候補やテキサス州知事のペリー候補などが残っているが、いずれも支持率は10%以下。指名争いは支持率上位のギングリッチ、ロムニーの2人に絞られてきた。

 大統領候補指名争いは、このあと来年1月3日のアイオワ州党員集会、10日のニューハンプシャー州予備選挙、21日のサウスカロライナ州予備選挙と続く。過去の例では、最初の2州で勝った候補が勢いに乗り、その後の党員集会と予備選挙をリードして指名を獲得することが多かった。ギャラップの州別の世論調査によれば、現時点ではギングリッチ候補がアイオワ州で支持率36%の高支持率を示し、2位のロムニー候補の18%を大きくリードしている。しかし、ニューハンプシャー州ではロムニー候補が35%の支持率で26%のギングリッチ候補をリード。両候補が党候補の指名獲得に向かって並走する形勢となっている。


・オバマ大統領が警戒するのはロムニー候補

 共和党大統領候補はギングリッチ、ロムニーのどちらかに絞られてきたが、世論調査によれば、両候補ともオバマ大統領には勝てない。ギャラップとUSA Today紙が12月8日から3日間にわたって実施した調査結果によれば、ギングリッチ候補がオバマ大統領と対決した場合、50%対44%でオバマ大統領が大勝する。一方、ロムニー候補がオバマ大統領と対決した場合も、47%対46%でオバマ大統領が勝つが、その差はわずか1%でほぼ互角に戦えることを示している。

 だが、共和党内ではロムニー候補の支持率は20%台で頭打ちの状態が続き、これまで世論調査で1位になったことはない。共和党内最大勢力の保守派が穏健派のロムニー候補を毛嫌いしていることが影響して支持率が伸びない。同候補がキリスト教少数派のモルモン教徒であることや、かつて妊娠中絶を容認する立場を示したことなどが保守派に嫌われているためだ。しかし、党候補指名争いに参加した候補の中では、最も資金力と組織力があるほか、政策論争でも手堅さを評価する向きが多い。共和党の上下両院議員は289人だが、このうち56人がロムニー候補を支持し、ギングリッチ候補を支持する8人を大幅に上回っている。オバマ大統領の選対本部もロムニー候補を批判するテレビ広告を頻繁に流し、対抗馬としてロムニー候補を警戒していることを隠さない。


・ギングリッチ指名は共和党の自殺行為

 ワシントン・ポスト(電子版)は12月10日共和党の大統領候補者選びを「自殺願望」と決め付ける論評を掲載した。共和党の保守派が「ロムニー以外の候補を見つけることに汲々とし、オバマ大統領を倒すという本来の目的を忘れたかに見える」からだ。勝てるかもしれないロムニー候補を差し置いて、負けるとわかっているギングリッチ候補を担げば自殺願望と言われてもしかたがない。同候補は支持率1位のケイン候補が失脚したあと、ティー・パーティ運動の支持で躍進、共和党の大統領候補指名に最も近い位置に就いた。しかし、党指導部は困惑している。

 共和党のボイナー下院議長が12月14日の朝食会で行った発言がそれを示している。同議長は質問に答え、「ギングリッチ候補は必ずしも皆が考えているような保守派ではない」と述べた。ボイナー下院議長はもちろん自分は、皆が考えているような保守派と思っているのは間違いない。つまり、ギングリッチ候補は保守派でも、ボイナー議長とは違う保守派ということになる。ギングリッチ候補は今回の大統領選出馬にあたってボイナー議長に支持を要請したと言われるが、議長はまだ答えていない。ギングリッチ候補は1995年から2期4年間下院議長を務め、ボイナー議長の大先輩にあたる。同議長がその大先輩の支持をためらう原因があるのだ。


・問われるギングリッチ候補の政治姿勢

 その1つは、ギングリッチ候補の政治姿勢に見られる一貫性のなさだ。同候補は下院議長時代、当時の民主党クリントン政権の環境保護政策に強く反対した。ゴア副大統領が中心になって環境保護の大キャンペーンを展開したのに対し、ギングリッチ下院議長が共和党の立場から厳しく対決したのだ。それから10年余りあとの08年、下院議員を退任してロビーストになったギングリッチ氏が民主党のペロシ下院議長と並んでテレビ広告に登場、当時のブッシュ政権に対して温暖化対策の拡充を訴えた。下院議長時代、共和党を代表して民主党政権と対決したのを忘れたかのように、民主党と組んで共和党政権と対決したのだ。政治家として信念がどこにあるのか疑われてもやむを得ない。

 このほか、ギングリッチ候補は国際的現実を無視する主張でも知られている。同候補は12月9日のインタビューで「パレスチナ民族という民族は存在しなかった。後世のデッチ上げだ」と主張した。オットマン帝国時代にはアラブ民族だけだったが、その後パレスチナ地方に住むアラブ民族をパレスチナ民族と呼び、国を持たせようとした。米国は「そのために戦うという悲劇が続いている」と主張した。米政府はブッシュ前政権以来イスラエルとパレスチナの2国家並立方式でパレスチナ問題の解決を模索している。ギングリッチ候補の主張はこの現実を無視する主張で、共和党指導部としては受け容れがたい内容だ。


・共和党指導部が恐れる大敗の可能性

 共和党指導部は今回の選挙で共和党の1党支配の体制確立を狙っていた。大統領選挙で圧倒的力を示し、ホワイトハウスだけでなく、議会の上下両院を同時に制するのだ。オバマ大統領にこれと指摘できる実績がなく、景気の低迷で経済政策に対する不満が募っているとき、この共和党の期待は実現可能と思われていた。しかし、ギングリッチ候補が共和党大統領候補となった場合、大統領としての資質の面でも政策面でも、オバマ大統領に太刀打ちできないのは明白。この弱い立場が大統領選挙だけでなく議会選挙にも響いて共和党の大敗に?がりかねないとの懸念が膨らんでいる。

 共和党が今回のように候補者選びで混乱し、お鉢が党内の長老にまわるのはこれが初めてではない。近年では、1996年選挙でドール上院議員が現職のクリントン大統領に挑戦した例、2008年選挙でマケイン上院議員がオバマ上院議員と対決した例がある。いずれも敗北したが、今回もこの前車の轍を踏むことになりかねない。


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