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米大統領選挙 オバマ大統領再選の課題
持田直武 国際ニュース分析

2011年12月4日 持田直武

オバマ大統領が再選されるには実績が必要だ。だが、同大統領にはこれと指摘できる実績がない。大統領として支持率もぱっとしないが、共和党の支持率も低迷しているため再選の可能性は五分五分。しかし、この状況で再選されても2期目の政権運営は厳しいとの見方が強い。民主党内にはオバマ大統領は再選を辞退し、後継者としてクリントン国務長官に出馬を要請するべきだとの意見も出ている。


・オバマ大統領が再選されても混乱収拾は困難

 オバマ大統領が再選されるには有権者が納得する実績が必要である。オバマ政権の下で暮しが楽になり、今後も良くなると有権者が期待を持てることが必要だ。だが、今のところオバマ大統領にはそれがない。米議会は与野党の対立激化で機能不全。同大統領は混乱を収拾できず立ち往生している。そんな状況にも拘わらず、オバマ大統領が民主党の大統領候補に再び指名されるのは確実だ。同党の予備選挙には、オバマ大統領を含め4人が立候補しているが、民主党指導部は同大統領以外の3人を泡沫候補扱いにし、候補者討論会も開催しない。その結果、オバマ大統領は政策論争をすることもなく民主党の大統領候補の指名を受けて本選挙で共和党候補と対決することになる。

 各種世論調査によれば、オバマ大統領の支持率は現在40%前半で低迷中だ。しかし、共和党の支持率も低迷しているため情勢は五分五分。この状況下でオバマ大統領が再選されても、政治的延命だけに終わり、国論を統一して混乱を収拾する政治力発揮は難しいとの見方が多い。このため民主党内にも混乱長期化を避けるにはオバマ大統領が再選を辞退するべきだとの意見も出ている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が21日に掲載した論評はその代表的な1つである。論評は「ヒラリー・クリントンの時」という題で、カーター大統領の選挙参謀だったパトリック・カデル氏とクリントン大統領の選挙参謀だったダグラス・ショーエン氏の両氏が連名で執筆した。


・国論を統一できる指導者はクリントン長官だけ

 この論評で、両氏はかつて民主党大統領トルーマンとジョンソンの2人が混乱収拾のため再選を断念した例を挙げ、オバマ大統領もこれにならうべきだと主張している。そして、クリントン国務長官に後継者として立候補を要請するよう提案した。両氏はその理由として「トルーマンとジョンソンは当時の国論分裂と混乱の中で大統領に再選されても効果的な統治はできない」と判断したため身を引いたと分析。「オバマ大統領も同じような国論分裂と混乱に直面しており、たとえ再選されても混乱収拾に必要な政治力を発揮するのは難しい」と断定し、「大統領の資質を備え、国論を統一できる指導者はクリントン国務長官を於いてほかにない」と主張している。

 ところで、トルーマン大統領が再選を断念したのは1952年3月、ニュー・ハンプシャー州の予備選挙が終わったあとだった。当時は冷戦の最中、国内では「赤狩り」が進行し、政権内でもソ連のスパイや共産主義シンパの摘発、政権幹部の汚職疑惑が浮上して政界は大揺れだった。中でも、トルーマン大統領が朝鮮戦争の最高司令官マッカーサー元帥を解任したことで保守派が強く反発。同大統領の支持率は史上最低の22%に下落した。52年3月11日のニュー・ハンプシャー州の予備選挙で、同大統領はキーフーバー上院議員に敗れ、3月29日再選辞退を発表した。

 ジョンソン大統領も68年3月ニュー・ハンプシャー州予備選挙で敗北し再選を断念した。当時はベトナム戦争の最中、米軍は50万を超える大部隊を南ベトナムに展開したが、北ベトナム軍はゲリラ戦で対抗。68年1月のテト(旧正月)攻勢では米兵の戦死者が1000人を超える週が連続し、米国内は若者たちの反戦運動が全国に拡大した。ジョンソン大統領は3月12日のニュー・ハンプシャー州予備選挙で1位になったものの反戦候補マッカーシー上院議員に7%の僅差に迫られた。その4日後、ロバート・ケネディ前司法長官が同大統領との対決を目指して立候補。同大統領はこれを見て3月31日再選を辞退すると発表した。


・問われるオバマ大統領の指導力

 オバマ大統領が再選にあたって問われる課題は経済である。景気は08年のリーマン・ショックのあと低迷が続き、失業者は約1500万人に上る。一方、連邦予算はブッシュ政権以来のテロ戦費とリーマン・ショック後の大型景気刺激策などで財政赤字が急増、政府の累積債務は15兆ドルに達した。この削減策を立てることが急務だが、議会は与野党が対立して開店休業状態。オバマ大統領が失業者対策として提案した雇用創出法案は満足な審議もないまま廃案になった。また、債務削減を協議する議会の超党派特別委員会は3ヶ月協議を続けたが、与野党の対立は解消せず11月末決裂した。民主党は債務削減のため富裕層への増税を主張。一方、共和党は社会保障費などの支出削減を主張して妥協せず、オバマ大統領も介入する余地はなかった。

 来年の選挙では正副大統領をはじめ上院議員の3分の1、下院議員の全員、知事や地方自治体の首長と議員などが改選になる。両党ともこの選挙で勝って、ホワイトハウスと議会の双方を支配し、ホワイトハウスと議会上院を民主党が支配し、下院は共和党が支配する現在のねじれ状態から脱却したい。それを実現するには両党とも可能な限りの手を打つ姿勢を隠さない。民主党が共和党の支持層が多い富裕層への増税を主張し、共和党は民主党支持者が多い社会保障受給者への予算削減を主張して妥協しないのはその1つの例だ。


・史上稀な汚い選挙になるとの予測

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙が掲載した「クリントンの時」の執筆者によれば、ホワイトハウスは「今年の選挙は史上稀に見る汚い選挙になることも覚悟している」という。オバマ大統領は実績がなく、中でも経済問題では40%以下の支持率しかない。同大統領は再選を訴えるにあたって、「暮らしはよくなったか」と聞くのもはばかる立場なのだ。一方、共和党も議会で非妥協的な立場をとり続けたことが祟って、民主党を上回る不興を買っている。この両者の戦いが泥仕合になるのは目に見えている。

 オバマ大統領はこの状況を予測したのか、再選費用として10億ドルの献金を集める計画を公表している。同大統領が08年選挙で当選した時の約2倍の額だ。「クリントンの時」の執筆者は「オバマ大統領は支持率が低いが、今回も勝つことはできる。しかし、汚い選挙で勝っても2期目の政権運営は難しくなる」と予測している。今回選挙でニュー・ハンプシャー州の予備選挙は1月10日だ。オバマ大統領が再選を辞退するとすれば、この日が1つの目安となる。


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