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朝鮮半島 首脳会談計画頓挫の背景を読む
持田直武 国際ニュース分析

2011年6月19日 持田直武

韓国と北朝鮮が首脳会談を目指して北京で秘密接触をしたが実現しなかった。天安沈没事件の謝罪や核放棄の問題など対話を妨げる山はまだ嶮しい。だが、秘密接触では山を乗り越えるための玉虫色の妥協案が出た。来年、韓国は核安全保障サミット、北朝鮮は強盛大国の大門を開く。南北関係の成り行きはこれら行事の成否にも関わることになる。


・北朝鮮の謝罪前提に玉虫色の妥協案

 北朝鮮の国防委員会報道官は6月1日朝鮮中央通信の質問に答え、韓国と首脳会談をめぐって秘密接触した内容を一方的に公開した。それによれば、首脳会談は4月に韓国が提案し、5月9日北京で双方が秘密接触した。韓国側はこの席で、首脳会談の日程として次のように提案した。5月後半に双方の閣僚級会談で議題を決定。第1回会談は板門店で6月後半に開催。第2回会談は2ヵ月後に平壌。第3回会談は来年3月、韓国で核安全保障サミットを開催するのと並行して開催するという内容だった。

 だが、北朝鮮はこの韓国側の提案を拒否した。理由の1つは、韓国が首脳会談開催の条件として、昨年3月に起きた「天安」沈没事件と11月の延坪島砲撃事件について、北朝鮮の謝罪を要求したことだ。北朝鮮側の発表によれば、韓国が秘密接触を提案した時は「この2つの事件は取り上げない」と約束した。しかし、韓国側は秘密接触の席に就くと「この2つの事件は南北関係を改善するために知恵を絞って越えなければならない山だ」と謝罪要求を蒸し返したという。

 この韓国の要求に対し、北朝鮮は天安沈没事件とは無関係、延坪島砲撃は自衛権の行使という従来からの主張を繰り返し、謝罪を拒否した。北朝鮮側の発表によれば、韓国側はそれでも諦めず、北朝鮮が「2つの事件について、少なくとも遺憾の意を表明するか、北から見れば謝罪とは見えないが、南から見れば謝罪のように見える妥協案を作って世界に向けて公表できないか」と提案。この問題を解決するためマレーシアで再度接触したいと要求したが、北朝鮮側は応じなかったという。


・ベルリン提案の真の意図をめぐる対立

 北朝鮮が韓国の提案を拒否したもう1つの理由は、李明博大統領が提唱した「ベルリン提案」をめぐる対立だった。秘密接触は北京で5月9日に始まったが、ベルリンでは同じ日、李明博大統領がメルケル首相と会談したあと記者会見して「ベルリン提案」を発表した。その主旨は、北朝鮮が核放棄について国際社会と合意すれば、来年3月韓国で開催する核安全保障サミットに金正日総書記を招くというものだ。北京の秘密接触と密接にからむ韓国側の動きだった。

これに対し、北朝鮮の祖国平和統一委員会は11日「ベルリン提案は反逆者たちの挑戦的妄言」として拒否した。ところが、国防委員会報道官によれば、韓国の大統領府報道官は19日「韓国は秘密会談でベルリン提案の『真の意図』を北朝鮮側に説明した」という噂を流したという。国防委員会報道官はこれを「真っ赤な嘘」と否定、「韓国がこのように秘密接触の内容を歪曲して公表した以上、我々は正確な内容を公表する」として秘密接触の内容を一方的に公開。秘密接触自体が消滅した。

こうした北朝鮮の主張に対し、韓国政府の説明は多くの点で対立している。玄仁沢統一省長官は6月上旬の国会審議で答弁し、韓国が首脳会談を提案したとする北朝鮮の主張を否定した。その上で、同長官は「北朝鮮が1月初めから対話の動きを見せ、天安事件や延坪島砲撃について話が可能と思えたので、接触に応じた」と説明。秘密接触は首脳会談のためではなく、北朝鮮の謝罪を引き出すのが狙いだったと主張した。また、ベルリン提案も秘密接触の場ではなく、別のルートで北朝鮮に伝えたと説明した。


・首脳会談計画はいずれ蘇る

首脳会談計画について、南北の主張は噛み合わないが、北朝鮮が秘密接触の内容を暴露したおかげで、対話を妨げている2つの山が分かった。山の1つは天安沈没事件と延坪島砲撃事件に関する謝罪問題。もう1つは核放棄の問題だ。このうち謝罪問題について、韓国は「少なくとも遺憾の意、または北から見れば謝罪とは見えないが、南から見れば謝罪と見える妥協案でよい」と提案したという。つまり玉虫色の決着で良いというのだ。今回、北朝鮮は応じなかったが、今後の解決の方向を示している。

もう1つの山は、北朝鮮の核放棄だが、ベルリン提案はこの問題の当面の落しどころを探るものだろう。韓国側は「提案の真の意図」について説明していないが、北朝鮮の核放棄に関する韓国側の見解と見るのが妥当だ。李明博大統領が金正日総書記を来年の核安保サミットに招くには、総書記が何らかの形で核放棄の意思を明確にしなければならない。それも核安保サミットの主旨に沿った内容であることが必要だ。そのためには、核安保サミットを主催する韓国としての見解を伝えることが必要になる。

南北両首脳にとって来年は特別の意味を持っている。李明博大統領は残る任期1年8ヶ月、来年3月の核安全保障サミットは任期中最大の重要行事となる。この席に金正日総書記を招き、核のない世界に向けて世界各国と協力することが決まれば、歴代大統領の誰にも勝る実績となる。一方、金正日総書記にとっても、来年は故金日成主席の生誕100周年、強盛大国の大門を開く年であり、金正恩氏の後継体制を確立する上でも韓国との関係改善は欠くことができないはずだ。今回、首脳会談計画は頓挫したが、いずれ蘇るだろう。


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