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米大統領選挙 保守派と穏健派の死闘(1)
持田直武 国際ニュース分析

2012年1月29日 持田直武

米国の政治は民主、共和の2大政党と保守派、穏健派、リベラル派の3派が動かしている。3派は予算編成のあり方から妊娠中絶の是非に至るまで鋭く対立し、妥協はしない。共和党の場合、近年の党大統領候補はすべて保守派だった。だが、今回の選挙で初めて穏健派のロムニー候補が党候補になる可能性が強まった。この保守派の危機感が共和党の大統領候補指名争いを突き動かしている。


・保守派ギングリッチ候補急浮上の背景

 共和党の大統領候補指名争いで保守派のギングリッチ候補が急浮上した。21日のサウスカロライナ州予備選挙で穏健派ロムニー候補を追い抜き、次のフロリダ州予備選挙でも首位を争っている。このギングリッチ候補の浮上を支えているのは保守系のキリスト教福音派とティーパーティ運動である。これに対し、ロムニー候補は1月3日のアイオワ州党員集会と10日のニューハンプシャー州予備選挙まではギングリッチ候補を大きくリードして優勢だった。そして、もしロムニー候補が21日のサウスカロライナ州予備選挙で勝てば、大統領候補指名に王手をかけたのも同じとの見方が強まり、保守派内に危機感が広がった。

 第二次世界大戦後、共和党の大統領候補はすべて保守派だった。しかし、穏健派のロムニー候補が党候補になれば共和党の本丸に初めて穏健派の旗が立つことになる。この危機感を背景にサウスカロライナ州予備選挙の2日前、キリスト教福音派とティーパーティ運動の活動家がそれぞれ対策を協議、ロムニー阻止の作戦を練った。メディアも同じ日ロムニー候補が年収16億円余り(2,100万ドル余り)の資産家にも拘わらず、14%以下の税金しか納めていないと報道、ロムニー候補に対する反発が広がった。その結果、21日のサウスカロライナ州予備選挙ではギングリッチ候補が得票率40.4%を獲得、27.4%のロムニー候補を大差で破った。


・草の根組織と納税疑惑報道がギングリッチを救う

 ギングリッチ候補はこのサウスカロライナ州予備選挙の勝利で23人の代議員を獲得、ロムニー候補とほぼ肩を並べた。それまでのギングリッチ候補は1月3日のアイオワ州党員集会と10日のニューハンプシャー州予備選挙でいずれも4位に低迷、一部では指名争いから撤退するとの見方も出ていた。キリスト教福音派とティーパーティ運動が窮地のギングリッチ候補を復活させたことになる。ワシントン・ポストの出口調査によれば、サウスカロライナ州で投票した有権者の65%はキリスト教福音派、そのうち44%はギングリッチ候補に投票し、ロムニー候補に投票したのは半分の22%だった。

 しかも、ギングリッチ候補に投票した有権者のうち42%は投票日にその決断をしたという。メディアがロムニー候補の納税疑惑を報道したのが投票日の2日前であることを考えると、報道が有権者の判断に影響を与えたことは十分考えられる。また、ワシントン・ポストによれば、税の適正徴収を運動方針に掲げるティーパーティの支持者も48%がギングリッチ候補に投票したとの調査結果が出た。窮地のギングリッチ候補が急浮上したのは、ティーパーティ運動とキリスト教福音派という共和党保守派の2大草の根組織とメディアが報じたロムニー候補の納税疑惑のおかげだったことになる。


・保守派と穏健派の対決が深刻化の可能性

 共和党の大統領候補指名争いはこのあと31日のフロリダ州予備選挙、2月4日のネバダ州予備選挙と続く。フロリダ州では、勝った候補が代議員50人全員を獲得するが、現状ではギングリッチ、ロムニーのどちらが勝っても両候補の戦闘態勢に変わりはなく、指名争いはこの2人による長期戦にもつれ込むとみられる。ただ、残りの2人サントラムとポールの両保守派候補はフロリダ州予備選挙のあと撤退の時期を探るとみられている。その結果、指名争いは穏健派のロムニー候補に対して保守派がギングリッチ候補に一本化するかが課題となる。

 共和党内では96年選挙の大統領候補だったドール元上院議員をはじめギングリッチ候補の政治手腕や性急な人格などに批判的な見解を持つ有力者が少なくない。ギングリッチ候補が指名争いで頭角を現わすに従って、これら有力者が懸念を表明し始めている。米の選挙は大統領選挙をはじめ、議会、州知事、地方自治体の首長など任期がきた選挙をすべて1日に実施する。その結果、大統領候補の良し悪しが全国で立候補している候補者全体に影響しかねない。ドール元上院議員は現役時代、強固な保守派で知られたが、今回は穏健派のロムニー候補支持を明言した。場合によっては、保守派がロムニー支持とギングリッチ支持に分裂しかねない動きが出ることも否定できない。
(米国の保守、穏健、リベラルの問題については次回のテーマ「米大統領選挙 保守、穏健、リベラル派3派の死闘(2)」でも取り上げる)


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