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米大統領選挙 同性結婚をめぐる攻防
持田直武 国際ニュース分析

2012年5月27日 持田直武

オバマ大統領が米大統領として初めて同性結婚に支持を表明した。同性結婚は米国でも長らく日陰の存在だったが、昨年から米国民の支持が50%を上回るようになった。リベラル派のオバマ大統領が再選を確保するにはこの流れに背を向けることはできない。だが、保守派の反発は激しく、大統領選挙戦の恰好の焦点になった。


・支持表明後1時間半で100万ドルの献金殺到

 オバマ大統領は5月9日ABCのニュース番組に出演、同性結婚を支持する立場を表明した。米歴代大統領の中で初めてである。このニュースが流れると、オバマ大統領の再選対策本部には支持者からの献金が殺到、選対関係者の非公式集計によれば最初の90分間に100万ドル集まったという。前日の8日、全米注視の中ノースカロライナ州で同性結婚の是非を問う住民投票があり、反対が61%に達した。同性結婚に反対する保守派の大勝だった。こんな時、オバマ大統領が同性結婚の支持を表明し、敗れたリベラル派にエールを送ったのである。

 同性カップルの結婚問題は1970年代から人権問題の1つとして表面化した。同性のカップルが男女のカップルと同じ権利を主張して各地で訴訟を起こしたのである。そして93年、ハワイ州の最高裁判所が全米で初めてこの主張を認め、同性カップルの結婚を認めないのは州憲法に違反するとの判決を下した。米国では結婚は州政府の結婚登録所に届け出る。結婚する2人が男女のカップルなら受理し、同性カップルの結婚届けは受理しないのが通常の対応だった。ハワイ州最高裁の判決は、この州政府の対応は男女平等を規定するハワイ州の州憲法に違反するとの判断だった。

 この判決が契機となって同性結婚に対する世論も次第に変化する。自治体や企業が同性のカップルにも男女のカップルと同じ扶養控除や遺産相続など社会的権利を認める動きが拡大した。2004年には、リベラル派が優勢な東部マサチューセッツ州が初めて同性結婚を合法化し、その後追随する州が続いている。現在は全米で6州が同性結婚を合法化、他の2州が合法化の手続き中だ。これに対抗して、保守派も31州で州法や州憲法を改正して同性結婚を禁止したほか、連邦議会も96年保守派の主導で「結婚保護法」を制定、結婚を男女間に限ると規定した。同性結婚が人工妊娠中絶や銃規制の問題などと並んで保守とリベラルが対立する政治課題となったのだ。


・世論の過半数が同性結婚支持に傾く

 同性結婚が人権問題として政治課題化するに従って支持者も増加した。ギャラップ世論調査所によれば、96年米連邦議会が保守派の主導で「結婚保護法」を制定、結婚を男女のカップルに限ると規定した時、国民の68%がこれを支持し、同性結婚を支持したのは27%だった。当時は世論の過半数が結婚は男女間に限ると考えていたのだ。しかし、その後同性結婚の支持率は急角度で増え続け、2011年には支持53%に対し反対45%となり初めて同性結婚支持が過半数を超えた。2012年5月の調査でも支持50%、反対が48%で支持が反対を上回っている。

 世論が変化した背景の1つは同性愛者がそれを隠さなくなったことだ。ワシントン・ポストの最近の調査では、米国民の71%が知り合いに同性結婚のカップルがいると答えている。こうした答えが1998年には59%、2010年には63%と確実に増えている。性的傾向を隠さず社会生活を送る同性結婚のカップルが増えているのだ。オバマ大統領も5月9日同性結婚支持を表明した時、「2人の娘たちが通う学校の父兄の中にも複数の同性結婚のカップルがいる」と述べた。そして「娘たちが差別があることを身のまわりのことから知るような社会でないようにしたい」と同性結婚を支持する理由を説明した。差別のない社会を目指すというリベラル派の理念に沿った発言だった。


・オバマ再選戦略の主要テーマの1つ

 オバマ大統領が同性結婚問題を選挙戦の焦点に据える考えであることは早くから知られていた。同大統領は2011年4月に再選を求める宣言をし、民主党の党大会を9月初旬ノースカロライナ州シャーロッテで開催することを決めた。ノースカロライナ州は全米でも有数の保守王国である。オバマ大統領はこの保守王国の中心で民主党の党大会を開催、民主党の大統領候補の指名を受けるとともに、同時に採択する民主党の党綱領に同性結婚の合法化を書き込む方針である。

 民主党の党大会や党綱領は民主党全国委員会が担当しているが、同委員会の組織はリベラル派の活動家が握っている。5月8日のノースカロライナ州の住民投票では、民主党リベラル派の活動家が同州に多数入り込み、共和党保守派と対決した。住民投票の結果は大方の予想通り保守派の大勝だった。しかし、オバマ大統領は翌9日テレビで同性結婚支持をあえて表明した。同大統領が秋の大統領選挙で再選を果たすためにはリベラル派の活動家の支持が不可欠だからだ。

こうしたオバマ大統領の動きに対し、共和党ロムニー候補の動きは鈍い。同大統領が同性結婚支持を表明した時、同候補は「同性結婚のような微妙な問題で献金を集めようとは思わない」と素っ気なかった。同候補は12日キリスト教福音派系の大学卒業式で演説した時も「結婚は男女が行うもの」と一言述べただけだった。福音派の信者には保守派が多い。ワシントン・ポストは「彼らはロムニー候補がオバマ大統領と四つに組む強い姿勢を期待したが、裏切られた」とこの時の情景を伝えた。 ロムニー候補はマサチューセッツ州が2004年全米で初めて同性結婚を合法化した時の州知事である。穏健派知事だったが、共和党の大統領候補の指名を得るために保守派の主張に転換した。しかし、リベラル派のオバマ大統領と四つに組むのはまだのようだ。


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