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米共和党の保守派ティー・パーティの暴走
持田直武 国際ニュース分析

2013年10月22日 持田直武

保守派ティー・パーティ・グループが議会下院を牛耳り、予算案を質にとってオバマ大統領と対決した。要求は同大統領が推進する国民皆保険制度を廃棄することである。政府機関の閉鎖や政府の債務不履行の危機が高まり、民主、共和両党首脳が暫定予算で妥協。危機は一時沈静化した。しかし、ティー・パーティの不満は収まらない。暫定予算の期限が切れる来年1月再び暴走する構えをみせている。


・共和党首脳も手を焼く保守強硬派の造反集団

米国で10月前半に起きた政府機関の一部閉鎖や債務不履行の危機は民主、共和党指導部が妥協案で合意かろうじて正常化した。だが、これは一時的な措置。暫定予算の期限が切れる来年1月15日と債務上限の引き上げが必要になる2月7日にはまた同じ危機が起きる気配が濃厚だ。危機を仕掛けている共和党の保守強硬派ティー・パーティはすでにそれを予告して資金集めに邁進している。来年は中間選挙があり立候補予定者はすでに予備選挙の準備を進めている。ティー・パーティはこの予備選挙で自派に同調する超保守派候補を支援、今回民主党との妥協案を支持した共和党候補には刺客を送り込む計画だという。

 ティー・パーティの拠点は議会下院で同派に属する議員は80人前後といわれる。議会下院は定数435、内訳は共和党232、民主党200。このうち16日の民主、共和両党指導部の妥協案に反対して造反した共和党下院議員は144人だった。一方民主党は出席した下院議員198人全員が妥協案を支持した。共和党の反対票144の中心になったのは言うまでもなくティー・パーティ系の議員である。民主党との妥協案をまとめたのは共和党のリーダーはボイナー下院議長だが、ティー・パーティの大量造反を食い止めることはできなかった。

 ティー・パーティの名前は米国独立直前の1773年植民地住民がボストン港にお茶の積荷を投げ捨てた事件に由来する。宗主国英国がお茶にまで税金をかけたことに反発して住民が起こした事件である。ティー・パーティ運動はこの主旨に沿ってその後税金を監視する運動として続いてきた。それが一変したのは2009年、オバマ大統領が就任してからである。当時、米国はリーマン・ショック後の不況にあえぎ、大企業も倒産が相次いだ。オバマ大統領は大規模な救済策を立案、基幹産業の自動車や銀行に膨大な救済資金を供給した。ティー・パーティはこの資金供給に反発、運動が一気に拡大したのである。同大統領が当選した2008年選挙では議会は上下両院とも民主党が多数を占め、ティー・パーティ系の議員はほとんど目立たなかった。それが2年後の2010年の中間選挙では同系の議員は下院で80人を越し、共和党内で最も強力なグループとなった。


・狙いは国民皆保険制度を潰すこと

 今回ティー・パーティ勢力は政府機関の閉鎖や政府の債務不履行を招きかねない行動をとったが、これは同派の真の狙いではない。真の狙いはオバマ大統領が推進する国民皆保険制度(正式名称は医療保険制度、略称Obamacare)を潰すことにある。オバマ大統領は08年立候補した時、リーマン・ショック対策とともに現在の医療保険制度を改革して国民皆保険制度を新設すると約束した。米は市場経済の原則を重視し、医療も自由診療が建前。国家が保険市場に介入する国民皆保険制度は受け容れられなかった。このため20世紀初頭のセオドア・ルーズベルト大統領や、トルーマン、ニクソン、クリントンなど歴代大統領が同制度の設立に挑戦したが、実現しなかった。

 そんな中、オバマ大統領が08年選挙で国民皆保険を公約して登場した。同時に行われた選挙で民主党が上下両院で過半数を獲得、オバマ大統領の公約実現の環境も整った。同大統領は09年国民皆保険を目指す医療保険改革法案を議会に提出して可決、13年10月から始まる14年度予算で同法の主要部分が実施に向けて動き出すはずだった。だが、同法はまだ動き出さない。ティー・パーティ勢力の横槍で予算が成立せず、政府機関は予算がないため閉鎖されたからだ。

 議会予算局の試算によれば、同法が実施されれば保険加入率が今後10年間で現在の83%から94%に増加、国民皆保険の状態がほぼ実現すると評価された。オバマ大統領も歴代大統領が挑戦して果たせなかった皆保険を実現したとして評価されるに違いない。ティー・パーティはこれを阻止するために立ち上がったのだった。


・混乱はオバマ大統領の任期満了まで続く?

 民主、共和両党首脳部が合意した妥協案は暫定予算を1月15日まで組み、政府債務の上限を超えた借り入れは2月7日までと決めている。両党首脳部はこれらの期限切れまでに問題が決着することを期待しているが、現在の状況では難しいようだ。ティー・パーティ勢力は14年度予算から医療保険改革法に関連する予算をすべて削除するよう要求し、これが実現しなければ14年度予算の下院通過を阻止するとの立場を変えていない。

 これに対し、オバマ大統領は同法関連予算の削減には一切応じないとの立場を変えていない。予算を削除すれば国民皆保険制度を推進することはできない。ティー・パーティはそれを狙っているのだ。昨年の大統領選挙で共和党の大統領候補だったロムニー元マサチューセッツ州知事は昨年5月大口献金者との会合で「何があってもオバマ大統領に投票する有権者は47%に上る。彼らは政府の扶養家族と同じで食費や医療費、住居費などを政府からもらうのが当然と考えている」と語った。

  ロムニー元知事はティー・パーティ系ではないが、この発言は共和党保守派の考えをよく現わしている。国民皆保険のような福祉政策を実施し続ければ国民は政府の扶養家族のようになって自立心を失うと考えている。ロムニー元知事が言及した47%とは当時の民主党候補オバマ大統領の支持率で47%はすでに民主党によって政府の扶養家族となったとみているのだ。これ以上政府の扶養家族を増やさないというのが、ティー・パーティが国民皆保険の実施阻止を叫ぶ理由なのだ。 


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