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北朝鮮の核とミサイル 金正恩第一書記の綱渡り
持田直武 国際ニュース分析

2013年2月3日 持田直武

国連安保理が北朝鮮のロケット発射を非難する制裁決議を採択した。米中が初めて両国の2国間協議で決議案を作成、今後ロケット発射と核実験をしないよう警告した。北朝鮮はこれに反発し、米国を狙う新たな核とミサイルの開発を拡大、強化すると宣言、安保理と対決する姿勢を強調した。また、中国に対しても、米国の圧力を受けて原則を見失っていると批判した。


・米中が合作した制裁強化決議

 今回制裁の対象になった長距離ロケットは、北朝鮮が昨年12月12日フィリピン沖に向けて発射した。防衛省の分析によれば、射程は推定1万キロ余り。北朝鮮がこのロケット発射の技術を使ってミサイルを開発した場合、弾頭は米国の中西部に達する可能性があるという。発射翌日の安保理緊急会合で、米オバマ政権は安保理決議による厳しい制裁を要求したが、中国が反対。安保理はそれ以来開催されなかった。しかし、今年に入って中国が態度を軟化、米中2カ国で協議を続けていた。

 今回の安保理決議はこの米中の2国間協議でまとめた制裁決議案を米国が提出、安保理が1月22日満場一致で採択した。決議はロケット発射を06年と09年の安保理決議違反と断定。発射を企画した「朝鮮宇宙空間技術委員会」など6団体、4個人を制裁対象として新たに指定した。この結果、すでに指定済みの制裁対象と合わせ17団体、9個人が国連加盟国にある資産を凍結されるほか、海外への渡航制限などの制裁を受けることになった。このほか、今回の決議は北朝鮮のミサイル開発を支える資金や、それを調達する密輸にも言及、監視態勢を強化するよう各国に要請した。決議はその上で、北朝鮮が再び核実験やロケット発射を強行すれば、安保理は重大な行動を取ると警告した。


・北朝鮮は米国を狙う核開発を推進すると宣言

 北朝鮮はこの安保理決議に真っ向から対決する3つの声明を出した。1つは同決議の翌日、北朝鮮外務省が出した「核抑止力を含む軍事力の拡大、強化を主張する」声明。北朝鮮はこの声明で、「安保理決議は米国主導のでっち上げで、北朝鮮の平和的な衛星打ち上げを違法とした」と非難。「米がこのような敵視政策を展開する情況下で朝鮮半島の非核化を決めた05年9月の6カ国共同声明や、同共同声明で合意した北朝鮮の核放棄の約束は死滅した」と主張した。その上で、外務省声明は「北朝鮮は今後核抑止力を含む自衛的な軍事力を質量ともに拡大し、強化する」と強調、安保理決議に真っ向から対決する方針を表明した。

 北朝鮮は続いて24日「核開発が米国を狙っている」ことを初めて明確にした。北朝鮮の最高意志決定機関、国防委員会が同日の声明で明らかにした。同声明はその中で、安保理による一連の制裁決議について「完全に違法」と主張。北朝鮮が「今後発射する各種衛星と長距離ロケット、それに高い水準の核実験はすべて不倶戴天の敵、米国を狙うことになる」と主張した。また、北朝鮮はこの国防委員会の声明で「世界の秩序維持の先頭に立つべき大国が米国の圧力を受けて初歩的な原則を見失っている」と主張。名指しはしなかったが、中国が米と協議して今回の安保理決議の草案作成に加わったことを非難した。


・金日成主席の遺訓、朝鮮半島非核化宣言も破棄

 北朝鮮はさらに25日、祖国平和統一委員会の声明を発表、1992年に韓国と調印した「朝鮮半島非核化宣言」の破棄を表明した。同声明はその理由として「韓国が安保理決議成立に積極的に加担するなど、もはや韓国と非核化の話し合いをする状況ではなくなった」と主張した。同宣言は1992年、北朝鮮は金日成国家主席、韓国は盧泰愚大統領が冷戦終了後の緊張緩和を背景に合意した宣言で、その後の米朝間の核協議や6カ国協議で朝鮮半島の非核化を議論する際の指針となった。北朝鮮も「非核化は金日成主席の遺訓」として重視してきた。しかし、金正恩第一書記の体制下ではその意義付けに変化が起きているようだ。

 金正恩第一書記は一昨年末、権力を継承したが、安全保障の中核となる核とミサイルに関連して今回のような一連の新方針を示したのは初めてだ。しかも、極めて強気だ。安保理が北朝鮮に核実験とロケット発射の自粛を求めたのに対し、北朝鮮は「核抑止力を含む軍事力を拡大、強化し、米国を狙う」と対決を宣言。そして、この目的達成の障害となるものは、核放棄の合意であれ、朝鮮半島非核化宣言であれ、すべて破棄するという。また、名指しは避けたが中国に対しても「世界の秩序維持の先頭に立つべき大国が米の圧力を受けてその初歩的な原則を見失っている」と非難した。


・状況を左右するのは中国の出方

 こうした北朝鮮の動きに対し、中国からは不満が出ている。中国共産党の機関紙「人民日報」は25日の社説で「怒りをあらわにするのは容易だが、そのために発生する問題は収拾するのが難しい。その結末をどう処理する作戦なのか」と論じた。また、人民日報の姉妹紙「環球時報」は25日「北朝鮮が新たな核実験や長距離ロケットの打ち上げをすれば、中国は北朝鮮に対する援助を縮小する」と報じた。韓国の新聞「朝鮮日報」によれば、中国は毎年、北朝鮮に対し食糧10万―20万トン、原油50万トンなど体制維持に必要な物資を無償で援助している。中国の官営メディアが北朝鮮の核実験宣言に対して「援助縮小」を公然と表明したのは初めてである。

 中国の次期政権はトップの習近平総書記は決まったが、政権のメンバーが決まるのはこれからでまだ過渡期だ。だが、新政権が登場しても、中国が朝鮮半島非核化やミサイル開発で従来からの主張を変えるような兆候は出ていない。韓国の聨合ニュースによれば、習近平総書記は最近韓国の代表団と会った席で「朝鮮半島の非核化と大量破壊兵器の拡散防止が朝鮮半島の平和維持にとって不可欠。中国はこのことについて一貫した立場をとっている」との見解を示したという。現在の状況は、北朝鮮の思うとおりには動いていない。「人民日報」が言うように「怒りをあらわにするのは容易だが、そのために発生する問題は、収拾するのが難しい」ということになりかねない。


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