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国連改革の行方
持田直武 国際ニュース分析

2005年7月4日 持田直武

日本の常任理事国入りの足並みが乱れている。理由は、米国との意見の相違がはっきりしたことだ。日本など常任理事国入りを目指すG4側は、新常任理事国を6増とするのに対し、米は2増。G4が国連総会で早期決議を主張するのに対し、米は総会審議を牽制。日本は、この米の意図を知った上で、G4を推進したのか。それとも知らずに駆け出したのか。7月6日からのサミットでは、恒例になっていた小泉・ブッシュ会談はないという。


・米国の本音、安保理改革は後回し

 国連改革について、米国はまとまった改革案を特に出さなかったが、6月下旬に入って、それが変わった。まず、6月15日、共和党のギングリッチ元下院議長、民主党のミッチェル上院院内総務らの国連改革諮問委員会が改革案を議会に提出した。次いで、国務省のバーンズ次官が16日、ブッシュ政権が描く国連改革の構想を発表。さらに翌17日、下院本会議が39項目の改革要求を列挙し、少なくとも32項目を実施しなければ、国連分担金の50%を削減するという厳しい要求案を可決した。これで、ブッシュ政権、議会、それに諮問委員会の3者の意見が出揃い、改革をめぐって米国内の本音が表面化する。

 3者、いずれの案も、国連は機構と活動、財政、人事管理など各面で幅広い改革が必要と主張している。しかし、安保理改革については、諮問委員会も下院の改革要求案も意見の表明を避け、事実上の反対を示唆した。国務省も安保理改革については「拡大は小規模にし、新常任理事国の増加は日本を含め2カ国。拒否権は新常任理事国には与えない」との極めて消極的な方針を示した。そして、改革の進め方については、「安保理改革を総会で討議し、エネルギーを浪費することに反対する」と述べ、日本などG4グループが総会で改革案の早期決議を目指していることを牽制した。

 国務省のバーンズ次官はまた、安保理改革よりも、「まず、財政改革、組織管理の改革、事務局の運営の改革の3分野を優先的に取り上げる。また、機構改革として、紛争後の和平構築を担当する委員会を設立する。このほか、人権抑圧国を排除した人権理事会を創設するとともに、テロ対策を包括的に扱う条約の制定を目指す」など一連の構想を示した。そして、これらの改革実現を優先させ、「安保理改革だけを突出させることはない」との方針を強調。ブッシュ政権が国連の本丸、安保理改革にきわめて慎重なことを示した。


・下院は分担金の削減を可決して改革にプレッシャー

 下院が可決した国連改革要求案は、国連予算を握る議会の立場から、国連組織の効率化、人事管理の透明性などを迫っている。主な内容を挙げると、「国連が現在抱えている18のプロジェクトを国連予算からはずし、献金によってまかなう。独立した監査機関や、倫理委員会の設置し、腐敗を防ぐため国連職員の資産を公開する。国連平和維持活動に参加する兵士の資格審査を実施し、行動基準を明確にする」。以上のような要求39項目を列挙、「このうち、少なくとも32項目の実施が確認できない場合、米国は国連分担金の50%を削減する」と規定している。

 この下院の改正要求案が上院を通過するかどうか、まだわからない。しかし、ホワイトハウスは6月16日、同案が国連分担金の50%を削減すると規定している点について、「実施すれば、国連における米国の信用を落とす」として、同項目の削除を勧告した。しかし、下院側はこれに応じず、翌17日、221対184の大差で可決した。米国は国連予算の22%を負担する最大の負担国だが、議会にはそれに見合った要求をするのは当然として、時には、国連を米政府の下部機関のように扱うこともある。今回の下院の改革案でそれが表面化した。

 一方、ギングリッチ元下院議長ら諮問委員会が提出した、もう1つの改革案は、改革の目標を「国連が米国民の安全や、世界市民の威厳を守る機関とすること」に置くと位置づけている。そして、国連の組織面、および活動面の改革は、その目標を達成する上で必須の条件だと主張。そのために、米国は強いリーダーシップを発揮する必要があると強調している。同諮問委員会は民主、共和両党の専門家を集めた超党派の委員会だが、その提言は、国連を米国の安全を守る機関と位置づける内容となった。こうした指摘が出る背景には、9.11事件後、ブッシュ政権が進めたテロ戦争に、国連の十分な協力がなかったとの不満があると見てよいだろう。


・背景に世界を誰が支配するかの確執

 米歴代政権で国連と確執のなかった政権はこれまでなかった。これは民主党政権も、共和党政権も同じである。国連は世界の全国家が参加し、各国の総意に基づく活動を理想とするのに対し、米国は世界の事実上の支配者として、米国のリーダーシップに基づく活動を重視する。それが、多国籍軍の活動から、時には、国連関係者の人事面にも及ぶことがある。1992年から5年間、事務総長を勤めたエジプトのガリ氏が退任後に著した回顧録で、次のようなエピソードを紹介している。1993年、ガリ氏が講演のためワシントンに行こうとすると、米国の当時の国連大使オルブライト女史から電話がかかった。「講演で、米国の国連分担金の未払いを批判しないように」という警告だった。ガリ氏は警告を無視した。そして3年後、当時のクリントン政権はガリ氏の事務総長再任に反対。後任にアナン事務総長が就任することになったという。

 当時、米議会は共和党保守派が国連の家族計画に反対して、国連分担金の一部支払いを凍結していた。アフリカなど発展途上国が妊娠中絶を含む家族計画を推進、これに国連の資金が使われるとして、中絶反対の米国内の保守派が強く反発したのだ。米議会の保守派議員がこれに同調、政府が要求する国連予算の承認を長期間拒否した。国際世論は、米国内の価値基準を国連に持ち込むものとして、顔をしかめたが、米国内ではこの問題では保守派の主張が優勢だった。クリントン政権もこの圧力を無視することはできず、ガリ氏が詰め腹を切ることになった。

 ブッシュ政権はこの保守派を基盤にする政権である。しかも、国連はじめ国際機関に厳しい視線を向ける、米国至上主義のネオコン(新保守主義者)が外交を牛耳っている。その中でも、「常任理事国は米国1国だけがよい」と主張するボルトン前国務次官を、ブッシュ大統領は国連大使に任命した。上院で、国際協調派の民主党議員が反対し、承認は棚上げ状態だが、承認されれば、ネオコンの世界観に基づいて、国連改革に豪腕を発揮することになるだろう。国連改革は創立60周年を契機に始まったが、実は改革にとって適切な時期ではなかったのかも知れない。


・日本は時期の選択は正しかったのか

 日本はドイツ、インド、ブラジルなど常任理事国入りを目指す諸国とG4を結成、総会で3分の2以上の賛成を確保して、目標を達成する計画だった。中国が日本の常任理事国入りを牽制しているが、総会で3分の2以上を確保すれば、反対を押し切れると踏んだのだ。しかし、米国が出してきた改革構想は、まだ確定的なものではないが、G4の戦略を狂わせるに十分だった。おかげで、G4案の総会提出の時期も大幅に狂っている。しかし、考えて見れば、それは米国の主権を至上のものとする米国至上主義に根ざすもので、米国の保守派の政策としてしばしば表に出ているものだ。

 日本は、今度のG4案を推進するにあたって、この米国の動きをあらかじめ読み込んでいたのか。それとも知らずに駆け出したのか。もし、前者で、米路線と相容れないことを覚悟でG4を推進したとすれば、その意味は捨てがたい。米はどう読んだのか、7月6日からのサミットで、恒例になっている小泉・ブッシュの首脳会談は、今回は予定にないという。


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